イランのホルムズ海峡封鎖が「肥料ショック」を引き起こして世界中で食費上昇や食糧不足を引き起こす可能性

アメリカとイスラエルによる攻撃を受けているイランは、報復としてペルシア湾とオマーン湾の間にあるホルムズ海峡を封鎖しました。これにより国際エネルギー市場は混乱に陥っていますが、国際連合大学の応用工学教授であるニマ・ショクリ氏らは注目するべきはエネルギー問題だけでなく、世界中の家計や農業に大打撃を与える「肥料ショック」にも注目するべきだと警告しています。
How the Iran war could create a ‘fertiliser shock’ – an often ignored global risk to food prices and farming
https://theconversation.com/how-the-iran-war-could-create-a-fertiliser-shock-an-often-ignored-global-risk-to-food-prices-and-farming-277552

ホルムズ海峡はペルシア湾沿岸諸国で産出する石油の重要な搬出路であり、世界の燃料輸出の20%がホルムズ海峡を経由するとのこと。そのため、イランによるホルムズ海峡封鎖に反応し、市場は原油価格の上昇やそれに伴うインフレ圧力に直面しています。
ところがショクリ氏らは、ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー問題は事態の一側面に過ぎないと指摘。見過ごされがちですが、ホルムズ海峡の封鎖は肥料価格の高騰や供給減少といった「肥料ショック」を引き起こし、世界の食糧安全保障に対する直接的なリスクになると指摘しています。

現代農業は太陽や土壌だけではなく、20世紀初頭に開発されたハーバー・ボッシュ法で製造された窒素肥料に大きく依存しています。ハーバー・ボッシュ法はメタンからアンモニアを作り出し、アンモニアは尿素などの窒素肥料に変換されます。
尿素は世界で最も広く使われている窒素肥料であり、このおかげで世界中の人口を養うだけの食糧を生産することが可能となっています。仮に窒素肥料が使えなくなった場合、小麦・トウモロコシ・米といった主要作物の収穫量は劇的に減り、人口を養うのに十分な食糧を生産できなくなってしまうリスクがあるとのこと。
イランによるホルムズ海峡封鎖が問題なのは、世界中で取引される尿素の約3分の1がホルムズ海峡を通過しているためです。ペルシア沿岸諸国は、アンモニア生産に不可欠な天然ガスを世界で最も安く調達できる地域であり、尿素生産の中心地として発展してきました。また、カタールやサウジアラビア、アラブ首長国連邦などはアンモニアや尿素を重要な輸出産業として位置づけ、生産能力を増強するために巨額の資本投資を行ってきました。
そのため、世界中で取引される窒素肥料や、他地域の肥料工場で燃料として使用される液化天然ガス(LNG)の相当量は、ホルムズ海峡を通過する必要があります。イランのホルムズ海峡封鎖は石油やガスの輸出だけでなく、農業にとって重要な窒素肥料の物理的な流れも脅かすというわけです。
さらに植物の成長に不可欠な栄養素である硫黄は、主に石油やガス処理の副産物として生産されているため、ホルムズ海峡を経由するエネルギー輸送が滞れば硫黄生産量も減少します。このようにホルムズ海峡の封鎖は、さまざまな経路で食糧不安を悪化させるとショクリ氏らは指摘しました。

ホルムズ海峡封鎖による直接的な影響としては、アンモニア・尿素・LNGの出荷遅延などが考えられ、輸送費や保険料の高騰によって出荷が完全に停止したり、肥料価格が高騰する可能性もあります。北半球の国々では作付けシーズン前に肥料の購入が加速しますが、肥料が予定通り届かなければ農家は価格上昇を受け入れるか、作物構成を変更することを余儀なくされます。
ショクリ氏らは、「窒素肥料に対する作物の反応を考えると、窒素肥料の使用量をわずかに減らすだけでも収穫量が著しく減少する可能性があります。これは数百万トンもの作物の損失につながる恐れがあります。その影響は世界のサプライチェーン全体に波及し、飼料市場や畜産、バイオ燃料、そして最終的には小売食品価格にまで及ぶでしょう」と述べました。
中には独自の肥料供給源を持つ国もありますが、インドは国内の尿素工場の稼働にLNGを必要としており、世界有数の肥料生産国であるアメリカですら地域需要を満たすため、相当量のアンモニアと尿素を輸入しています。そのため、たとえ自国で肥料を生産していても、ホルムズ海峡封鎖の影響を免れることは不可能です。
また、窒素肥料の供給不足に対応するため自国で窒素生産を始めようとしても、資金調達や工場建設には何年もの期間がかかります。国民は肥料生産が軌道に乗るまでの間、数年以上にわたって価格の上昇や不安定な食糧供給にさらされることとなります。
ショクリ氏らは、「エネルギー市場は備蓄と代替によってショックを吸収できますが、世界の食糧システムにははるかに弱い緩衝材しかありません。ホルムズ海峡での長期にわたる混乱は、単に原油価格の変動を招くだけでなく、現代文明が依存する産業用窒素循環の回復力を試すことになるでしょう」「ホルムズ海峡が閉鎖されることの最も深刻な代償は、ブレント原油ではなく世界の食糧供給コストの上昇となるかもしれません」と述べました。
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in メモ, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article Iran's blockade of the Strait of Hor….






