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土壌の健康を守る「有機農業」や「環境再生型農業」が農村の経済を活性化させるのか?


農業にとって土壌の健康は重要ですが、近年では大量の農薬や化学肥料を使用する工業的な農業が進んだことにより、土壌の劣化が進んでいることが問題視されています。農業が盛んなアメリカ・モンタナ州では、持続可能な農業を目指す農家らが有機農業環境再生型農業に着目しており、地域の経済が変化しつつあるとのことです。

Common Ground: "Soil is our livelihood and we better protect it, or we’re screwed."
https://montanafreepress.org/2021/07/06/regenerative-agriculture-evitalizing-rural-montana-economies/

モンタナ州の北中部でTiber Ridge Farmという農場を営むジョン・ウィックさんは、2007年に父親が亡くなったことを機にモンタナ州立大学を中退し、母親を助けるために農業を始めました。記事作成時点で36歳のウィックさんは、2015年に結婚した元パティシエの妻・ギブンスさんと共に農業を行っています。


Tiber Ridge Farmが位置するのは、モンタナ州の中でも農業が盛んな地域「ゴールデントライアングル」の中心部です。ゴールデントライアングルを形成する9つの郡は、2019年にモンタナ州で生産された冬小麦の61%と大麦の58%を生産し、年間の農業収入は10億ドル(約1100億円)を超えています。他のモンタナ州の農家と同様に、ゴールデントライアングルの農家のほとんどが従来の工業的な農業を営んでおり、可能な限り多くの収量を目指して農薬や肥料を使い、遺伝子組み換え作物を栽培しているとのこと。

しかし、ウィックさん夫妻が行っているのは工業的な農業ではなく、土壌の健康を重視する有機農業や環境再生型農業です。従来の工業的農業では、作物に十分な栄養素を与えるために4~5インチ(約10~12.7cm)の深さまで耕作しますが、これは健全な地下生態系を構築する植物や動物、微生物のネットワークを破壊し、土壌の浸食を引き起こしてしまいます。そこでウィックさん夫妻は、耕作する深さを2インチ(約5cm)に制限し、そこを超えて地下生態系を破壊しないように心がけているそうです。

また、ウィックさんとギブンスさんは、複数の区画で栽培する作物を1年ごとにローテーションするほか、土壌の侵食を防ぐための被覆作物を植えることで窒素やバイオマスを土壌に戻すなど、工業的な農業とは違った方法にチャレンジしています。また、近隣の牧場主に土地を貸し出すことで放牧した牛のひづめで土壌に空気を取り込ませ、排せつ物を介して有機物と栄養素を土壌に与えるといった試みも行っているとのこと。


近年の気候変動により、モンタナ州では今後50年間で2万5000人もの農家が仕事を失うと予想されており、多くの農民や牧場主はこれまでの農法が持続可能なものではないと気づき始めています。そのため、ウィックさん夫妻のように有機農業や環境再生型農業を取り入れる農家は、ますます増えているとのこと。

有機農業を営む農家はアメリカ合衆国農務省(USDA)の認定を受けているため、モンタナ州はカリフォルニア州に次いで有機農業が増加している州であることがわかっています。また、環境再生型農業は明確な定義や認定がないものの、1つの指標となる被覆作物の作付面積は、過去10年間で489%も増加しているそうです。

農家にとって、有機農業や環境再生型農業への移行は気の遠くなる道のりです。たとえ長期的には土壌の健康および経済的安定性の改善につながると考えていても、従来の農法がよくなかったと認め、新たな農法に切り替えるのは難しい決断です。ウィックさんも、農場を継いだ当初から所有する土地の全てで小麦を生産し、年々債務を積み上げている状況に危機感を抱いていたものの、有機農業への移行に踏み切ることができなかったとのこと。その背中を後押ししたのは、パートナーであるギブンスさんだったそうで、結婚の翌年である2016年から2人は有機作物の実験を開始。まずは農場の一部でレンズ豆や春小麦を植える実験をしたところ、2016年の終わりには有機作物が有益であることが確かめられました。

また、ウィックさんは2015年にラウンドアップという除草剤を吸入して化学性肺炎を発症しており、農薬の使用にも懸念を抱いていました。その後、化学企業がラウンドアップより効果が高いものの少量でも人体に致命的な影響を及ぼすパラコートを勧めてきたことをきっかけに、2018年からは農薬と肥料を使うのをやめたそうです。2021年にはTiber Ridge Farm全体が有機栽培の認証を受けたほか、民間団体が新設した環境再生型農業の認証も申請中だとのこと。


すでにウィックさん夫妻が有機農業や環境再生型農業を始めてから5年が経過していますが、その間にさまざまな障害に直面してきました。たとえば、ヒトツブコムギなどの一部の特殊な作物には保険が適用されなかったり、有機農業で生産された穀物は近場の企業では取り扱われず、より遠い施設まで運ばなければならなかったりしたとのこと。また、有機農業は工業的な農業と比較して時間も手間もかかるため、労働時間は長くなったとウィックさんは述べています。

それでも、ウィックさんは工業的な農業から有機農業に切り替えた価値はあったと主張しています。工業的な農業を行っていた時は、上昇を続ける農薬や肥料のコストに悩まされ、単一作物に注力する弊害で作物価格の変動が収入を大きく左右していました。ところが、有機農業に切り替えると農薬や肥料のコストが削減できたほか、多様な作物を栽培することで価格の変動に対する経済的な安定が生まれたとのこと。また、有機作物は加工業者への直接販売が基本であり、特にモンタナ州では事前に取引価格を固定した契約が多いことから、従来の方法で栽培した作物の2~3倍の価格で売ることもあるそうです。

ウィックさん夫妻は地元に根付いた生活を送っており、近所の食料品店や隣人から食材を購入し、地元の販売店で農機具を買い、農業組合や有機栽培団体に所属してコミュニティに貢献しているほか、記事作成時点では農場の従業員も雇っています。ミネソタ州立大学の農業経済学者であるジョージ・ヘインズ氏は、農村社会では地元のコミュニティでお金を循環させることが重要だと主張。ウィックさん夫妻のように、農業コミュニティでより多くのお金を稼ぐことは雇用を生み出し、コミュニティのインフラストラクチャー改善にも役立つと述べています。


ウィックさん夫妻と同じくモンタナ州で農業を営むコーリー・フォークスさんは、土壌の肥沃度や生物多様性を回復するために環境再生型農業を取り入れた農家の1人です。雑草を除去するために最低限の除草剤は使うそうですが、ラウンドアップを使う代わりに被覆作物を植えて土壌を保護し、牛の放牧と組み合わせた農業を実践しているとのこと。

フォークスさん自身も隣人から環境再生型農業を勧められたほか、近年では都会から地元に戻って農業を継ぐ若者も増えているとのことで、フォークスさんはより多くの人々が新しいことにチャレンジすることを望んでいます。記事作成時点では、フォークスさんは放牧した牛の90%を地元の顧客に販売しており、栄養密度をアピールポイントにしたマメ科植物や穀物にも、この直接販売システムを広げたいと考えています。

「少なくとも今、私たちは私たちの土壌を改善し、生態系を健康にする方法を考えています。そして私は、生計を維持してよりよい製品を生産し続けることができれば、たとえそれが経済的な利益でなくても、最終的に自分たちが報われると考えています」と、フォークスさんは述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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