農薬や栄養素をほぼ100%作物に取り込ませることが可能になる新技術が発表される
by Bru-nO
2019年時点で使用されている、空中散布して根から取り込ませるタイプの肥料や農薬は、95%以上が農作物に取り込まれずに無駄になっていることが分かっています。土壌に残留したり、地下水に流れ込んだりした農薬は無駄なだけでなく、土壌や周囲の環境に悪影響を及ぼし、持続的な農業を困難にさせます。そんな中、ナノテクノロジーを活用した新技術により、農薬や栄養素をほぼ100%作物に取り込ませることが可能になるという研究結果が発表されました。
Nanoparticle Size and Coating Chemistry Control Foliar Uptake Pathways, Translocation, and Leaf-to-Rhizosphere Transport in Wheat | ACS Nano
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.8b09781
A new route for plant nutrient delivery - College of Engineering at Carnegie Mellon University
https://engineering.cmu.edu/news-events/news/2019/06/12-lowry-acs-nano.html
Scientists discover a new way to provide plants the nutrients they need to thrive | TechCrunch
https://techcrunch.com/2019/06/24/scientists-discover-a-new-way-to-provide-plants-the-nutrients-they-need-to-thrive/
高効率で農薬などを植物体に取り込ませる新技術を開発したのは、カーネギーメロン大学で土木環境工学を教えるグレッグ・ローリー教授らの研究グループです。研究グループはまず、水に溶けやすい高分子ポリマーであるポリビニルピロリドン(PVP)でコーティングした直径50nm以下の金の粒子をコムギの表面に塗布する実験を行いました。金を使用した理由は、安定した物質であり、植物によって代謝されないため追跡が容易なためです。
金の粒子をコムギに散布した結果、金は葉の表面から中に入り込み、植物の血管である維管束を通って植物体全体に広まったことが確認できたとのこと。
葉に噴霧したナノ粒子の動きをより詳細に見ていくとこんな感じ。噴霧されたナノ粒子はまず葉の表面に付着します。
次に、ナノ粒子は植物体を外界から守る役目を持つクチクラやワックス状の外層をすり抜けます。
ナノ粒子はさらに、植物体が水分を保持し、ガス交換をするための表皮を横断して……
葉の内部である葉肉に到達します。
そして、葉脈を通じて植物の血管である維管束に流れ込み、植物の組織全体に行き渡るというわけです。
また、一部は維管束の中にある、養分の通路である師部を通って根に移行し……
根の周囲の土壌にも行き渡ります。これにより、植物はナノ粒子化された栄養素や農薬を、根から継続的に取り込むことができます。
この方法では、植物の表面に付着したナノ粒子はほぼ100%植物に取り込まれるとのこと。このため、さまざまな活用方法が想定されています。例えば、酸化亜鉛のナノ粒子を植物体を介して土壌に放出させることで、作物と土壌の栄養状態を一度に改善させることができます。また、植物体の中に病原菌が入り込んでしまった場合、原則として菌を除去することは不可能ですが、ナノ粒子で抗生物質を運搬させることで、細菌性の病害を治療することができると見込まれています。
by wuzefe
さらに、ナノ粒子は表面のコーティングに使用する材質やコーティング方法によりさまざまな特性を持つように加工することができるため、雨が降っても流れ出ずに葉に残りつづけるようなナノ粒子や、光などに反応して効果を発揮するようにコーティングすることも可能だとのこと。
ローリー教授はナノ粒子による物質の運搬技術について「農業技術にパラダイムシフトをもたらすものです」と語り、この技術が実用化されることで農作物の生産効率を飛躍的に向上させることができるとの展望を述べていました。
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