「有機農業は従来農業と比較してどのようなメリットがあるのか?」を40年にわたり実験した結果が公開
農薬や化学肥料を用いずに環境負荷を低減した方法で行われる有機農業には、「自然に優しい」「健康にいい」「土壌にいい」といったさまざまなメリットがあると提唱されています。有機農業が従来の農業とどのように違うのかを調べるため、数十年にわたって有機農業と従来農業の比較実験を行った結果が、有機農業の研究を支援するアメリカの非営利団体・Rodale Instituteによって公開されています。
Farming Systems Trial - Rodale Institute
https://rodaleinstitute.org/science/farming-systems-trial/
Rodale Instituteが行っている「Farming Systems Trial」は、北米で最も長く実行されている有機農業と従来農業の比較実験です。1981年にスタートしたFarming Systems Trialでは、40年近くにわたって土壌の健康状態や作物の収穫量、エネルギー効率、水の使用と汚染、作物の栄養状態などのデータが収集されているとのこと。
Farming Systems Trialが行われているのは、ペンシルベニア州カッズタウンのRodale Instituteが所有する12エーカー(約4万8000平方メートル)の土地です。この土地は大きく分けて3つの区画に分割されており、それぞれの区画は「有機肥料で栽培する区画」「緑肥を用いて有機栽培する区画」「従来の農法で栽培する区画」となっています。
「有機肥料で栽培する区画」では、生物由来の有機肥料が用いられます。一方、「緑肥を用いて有機栽培する区画」における唯一の肥料源は、メインの穀物を栽培する前に畑で成長するマメ科植物のみです。緑肥とは、畑に生える植物を収穫せずにそのまま土と一緒に耕すことで、後から栽培する作物の肥料にすることを指しています。また、従来の農法はアメリカの典型的な穀物農場における農業で、化学肥料による合成窒素を土壌の栄養源として、雑草は合成除草剤によって除去されるとのこと。
Farming System Trialは従来農法から有機農法への移行を検討するアメリカの農家に対し、実用的なデータを提供することが目的とされています。そのため、アメリカで栽培されている作物の70%がトウモロコシや大豆、オーツ麦(エンバク)、コムギといった穀物である点を考慮し、Farming System Trialではいずれの区画でも穀物の栽培を行っているそうです。また、2008年からは遺伝子組み換え作物の栽培や、畑をあえて耕さない不耕起栽培の導入も行っているとRodale Instituteは述べています。
およそ40年にわたる長期的な比較実験の結果、Rodale Instituteは有機農業が従来農業と比較して多くのメリットを示したと報告しています。Rodale Instituteが主張する有機農業のメリットは以下の通り。
・5年間の移行期間を経た後は、従来農業と競争可能な収穫量が得られる。
・干ばつ時の収穫量が従来農業よりも最大40%高い。
・付近の水に有毒な化学物質が浸出しない。
・エネルギー消費量が従来農業と比較して45%少ない。
・炭素排出量が従来農業より40%少ない。
・農家が得られる利益が従来農業より3~6倍増加する。
有機農業と従来農業でさまざまな違いが現れた理由について、Rodale Instituteは「土壌」が大きく関与していると指摘しています。土壌中に存在するバクテリアや真菌、その他の微生物である有機物が多いほど土壌は健康であり、有機農業では土壌中の有機物が次第に増加していく傾向が見られるとのこと。
実際に土壌サンプル中に存在する有機物について3つの区画を比較したグラフがこれ。従来農業では土壌中の有機物量にあまり変化が見られませんが、有機農業では有機肥料を使った場合でも緑肥を使った場合でも、有機物量が増加していることがわかります。健康な土壌はよく結合して土壌の浸食や水路への流出を防ぎ、より多くの水分を保持するために干ばつ時でも植物へ水分を提供できるとRodale Instituteは述べています。
オーツ麦の栄養素密度について、「LEG(緑肥農業)」「MNR(有機肥料農業)」「CNV(従来農業)」および「T(耕して栽培)」「NT(不耕起栽培)」で比較した結果がこれ。緑肥農業で栽培されたオーツ麦では、タンパク質の含有量が100gあたり1gほど高いことがわかります。また、必須アミノ酸や非必須アミノ酸の含有量についても、緑肥栽培のオーツ麦で高い傾向が見られたとのこと。
また、2016年のトウモロコシの収穫量を「Conventinal(従来農業)」「Organic Legume(緑肥農業)」「Organic Manure(有機肥料農業)」および「No Till(不耕起栽培)」「Tilled(耕して栽培)」で比較した結果がこれ。有機肥料農業の不耕起栽培による収穫量は1エーカー(約4000平方メートル)当たり200ブッシェル(約5トン)を記録し、従来農業の不耕起栽培による収穫量の110ブッシェル(約2.7トン)の2倍近くとなっています。また、面積当たりの収穫量が増加すると共に、農家が得られる収入にも大きな違いが出ており、有機肥料の不耕起栽培では1エーカー当たり1809ドル(約19万1000円)、従来農業の不耕起栽培では1エーカー当たり389ドル(約4万1000円)の収入となっています。
Rodale Instituteは、40年間という長い期間にわたって比較実験を続けたことにより、ほんの数年間だけの研究では得られない干ばつ時の影響や土壌の生物学的変化など、長期的な影響を測定することができたと述べました。
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