国民の「痛み」を測ると国の豊かさが見えてくるという主張

国の豊かさを測る指標としてはGDP(国内総生産)がよく使われますが、それだけでは人々の暮らしの細かい部分までは見えません。ロンドン大学シティ・セント・ジョージズ校の心理学者であるルシア・マッキア氏は、学術系ニュースサイトのThe Conversationで「体の痛みもウェルビーイングを測る指標に加えるべき」と主張しています。
Why measuring pain could reveal more about wellbeing than GDP
https://theconversation.com/why-measuring-pain-could-reveal-more-about-wellbeing-than-gdp-279294

マッキア氏は2023年に学術誌「Nature Human Behaviour」に掲載されたコメントで、痛みは医療だけの問題ではなく、経済状況や社会とのつながり、日々の行動とも関係する現象だと指摘しました。その上で、政府は人々の暮らしやすさや心身の状態を示すウェルビーイングの指標の中に、痛みを継続的に測る項目も入れるべきだと述べています。
国の豊かさや暮らしやすさを考えるときには、GDPのような経済指標に加えて、生活にどのくらい満足しているか、どんな気分で過ごしているかといった指標も使われてきました。マッキア氏は、人々の生活に影響する見えにくい問題の一つが体の痛みだとしています。
こうした考え方の背景には、マッキア氏自身が参加した複数の研究があります。たとえば、マッキア氏の2022年の論文「Pain trends and pain growth disparities, 2009-2021」では、146カ国・約160万人のデータを分析した結果、体の痛みを訴える人の割合は2009年の26.3%から2021年には32.1%へ増えていました。この増加は高所得国でも低所得国でも見られ、特に女性や低所得層、低学歴層で大きかったと報告されています。
2021年の論文「Physical pain, gender, and the state of the economy in 146 nations」では、失業率が高い国ほど体の痛みを抱える人も多い傾向が示されました。論文では、この傾向は失業した本人に限らず、社会全体で痛みが増える形で表れていたとしています。痛みの増加は特に女性で目立ったと報告されています。
また、2025年の論文「The association between loneliness and pain, and the role of physical health and distress: an analysis in 139 countries」では、各国の人々の意識や生活状況を調べる国際調査「Gallup World Poll」の2023年と2024年のデータを使い、139カ国・25万6760人を分析しています。その結果、孤独を感じている人は、孤独を感じていない人に比べて、体の痛みを経験する可能性が高いことが示されました。国によって結び付きの強さには差があったものの、孤独と痛みの関連は幅広い国で確認されています。

さらに、マッキア氏らが2025年に発表した別の論文「Physical pain as a component of subjective wellbeing」では、痛みが失業や低所得、低学歴層、経済的不安といった社会的な要因と結び付いていることが報告されています。こうした要因は、これまで使われてきた生活満足度や感情の状態を尋ねる「主観的ウェルビーイング」の指標と重なる部分もあります。それでもマッキア氏らは、「痛みは既存のウェルビーイングの指標だけでは十分にとらえきれず、別の項目として測る価値がある」と主張しています。
こうした事情を踏まえて、マッキア氏は「政府の調査票に短い質問を加えるだけでも、人々の暮らしや心身の状態はかなり把握しやすくなる」としています。たとえば、「前日に体の痛みを感じたか」や「今どのくらい痛みがあるか」といった質問を続けて尋ねることで、GDPや生活満足度だけでは見えにくい不調も把握しやすくなるとのこと。すでに行われている社会調査や健康調査に組み込みやすいことも利点だとマッキア氏は述べています。
マッキア氏は、政府の調査票に痛みに関する質問を加えることは、GDPや幸福度の指標を別のものに置き換える話ではなく、それだけでは見えない部分を補おうという考え方だと説明しています。経済が成長していても、雇用への不安や孤独、長く続く不調が広がっていれば、人々の暮らしが良い方向に進んでいるとは限りません。マッキア氏は、国民の「痛み」を見ることで、GDPだけでは見えない人々の暮らしや心身の状態が見えてくる可能性があると指摘しています。
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in サイエンス, Posted by log1b_ok
You can read the machine translated English article The argument is that measuring the 'pain….







