サイエンス

慢性的な痛みの軽減に「神経細胞へミトコンドリアを移植すること」が有効かもしれない


ミトコンドリアは体内のエネルギー産生に関わる細胞小器官であり、近年はパーキンソン病脳の炎症眠気などに関与しているとの研究結果が報告されています。新たに、アメリカのデューク大学などの研究チームが行った実験により、ミトコンドリアを神経細胞に移植することで慢性的な神経痛を軽減できる可能性が判明しました。

Mitochondrial transfer from glia to neurons protects against peripheral neuropathy | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-025-09896-x


'They are much more connected than we thought': Study may rewrite our understanding of glia, the nervous system's support cells | Live Science
https://www.livescience.com/health/neuroscience/mitochondrial-transfer-into-nerves-could-relieve-chronic-pain-early-study-hints

後根神経節は脊髄付近に密集している神経細胞であり、密集部分から長い一次感覚ニューロン(神経線維)が頭からつま先まで、体のさまざまな部位に伸びています。これらの神経線維が適切に機能するためには、神経の根元で作られたミトコンドリアが神経線維の末端まで行き渡る必要があります。しかし、ミトコンドリアを末端まで送るには多大なエネルギーが必要であるため、「神経がどのようにしてミトコンドリア輸送のサプライチェーンを維持しているのか?」という疑問があるとのこと。

かつて科学者らは、細胞は使用するミトコンドリアを自ら作り出さなくてはならないと考えていましたが、近年になって細胞同士がミトコンドリアを交換しているという証拠が見つかりました。この交換は幹細胞と免疫細胞のように異なる種類の細胞間でも発生し、細胞は膜状のトンネル様構造であるトンネルナノチューブを通じてミトコンドリアを輸送しているとのこと。

今回、デューク大学医学部のトランスレーショナル疼痛医学センター局長を務めるルー・ロン・ジー教授らの研究チームは、「後根神経節の神経線維を取り囲んでいるサテライトグリア細胞という末梢(まっしょう)神経系の細胞が、ミトコンドリアを神経線維の末端に直接輸送しているのではないか」との仮説を立てて実験しました。

マウス細胞とヒト組織を用いた一連の実験の結果、サテライトグリア細胞がミトコンドリアを後根神経節の神経線維に輸送していることが確認されました。ジー氏は、「これらの細胞が実際にトンネルナノチューブを伸ばし、ミトコンドリアを内部に届けていることを実証しました。この発見は他に類を見ないものです」と述べています。

以下の画像は、実際にサテライトグリア細胞と神経線維の間に伸びるトンネルナノチューブを捉えたもの。チューブの途中に膨らんだ部分があり、何かが輸送されていることがわかります。


トンネルナノチューブは一時的な構造であり、特定の物質輸送が完了するとすぐに分解されます。研究チームの実験により、MYO10というタンパク質がトンネルナノチューブの構築に不可欠であり、サテライトグリア細胞から目標の神経線維までチューブを伸ばすのに役立っていることが示されました。しかし、「サテライトグリア細胞から放出される小さな泡」「細胞膜間に形成される特殊なチャネル」などを通じて、ミトコンドリアがトンネルナノチューブを介さずに輸送されることもあったと報告されています。

研究チームが健康な実験用マウスでこれらのミトコンドリア輸送を阻害すると、痛みに対する感受性が高まることが判明しました。ミトコンドリアの輸送が滞ると神経損傷が促進され、刺激がなくても異常な発火が起きるようになったとのこと。ジー氏は、「それは慢性的な痛みを引き起こすとともに、神経変性も引き起こします。なぜなら神経細胞が狂ったように発火すれば、最終的にはその神経細胞が変性する可能性が高いからです」と指摘しました。


さらに、化学療法薬にさらされたり糖尿病になったりして神経損傷を受けたマウスを調査したところ、これらの神経損傷がサテライトグリア細胞からのミトコンドリア輸送をある程度阻害しており、それが神経痛の一因になっていることがわかりました。しかし、これらのマウスに健康なサテライトグリア細胞を移植した結果、新鮮で健康なミトコンドリアが神経線維に供給されるようになり、痛みが軽減されることが確認されました。

注目するべきことに、化学療法や糖尿病による神経損傷は最も細い神経線維に強く影響し、より太い神経線維は回復力に優れています。今回の実験では、サテライトグリア細胞がより太い神経線維に多くのミトコンドリアを供給し、細い神経線維への供給はそれより少ないことが示されました。つまり、サテライトグリア細胞はミトコンドリアの供給先についてある程度の「好み」を持っているというわけです。

サテライトグリア細胞のミトコンドリア輸送を解明するにはさらなる研究が必要ですが、今回の実験は神経痛の将来的な治療法開発につながるかもしれません。理論的には、サテライトグリア細胞の活性を高めてミトコンドリア輸送を促進したり、実験室で培養したミトコンドリアを直接神経に注入したりする方法が考えられます。


長らく、サテライトグリア細胞などのグリア細胞は神経系を接着する役割しか持っていないと考えられてきましたが、近年では記憶などのプロセスにもグリア細胞が関与していることがわかっています。今回の研究結果は、グリア細胞が持つ多様な役割を解明する上でも意味を持っています。

ジー氏は、「ミトコンドリアという非常に大きな細胞小器官をチューブで輸送できるなら、他にもたくさんのものを輸送できるはずですよね?つまり神経細胞とグリア細胞は、私たちが考えていたよりもはるかに密接につながっているということです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article Transplanting mitochondria into nerve ce….