サイエンス

「1日1個のオレンジ」でうつ病リスクが20%低下するとの研究結果、鍵は「腸内細菌」


食事と脳の関係は密接なことが知られており、食事の時間帯や肉抜きのヴィーガン食、砂糖たっぷりのジャンクフードなどがうつ病リスクと関連していることが、これまでの研究でわかっています。ハーバード大学医学部などが行った新しい研究により、オレンジを定期的に食べると腸内細菌のバランスが整えられて、メンタルヘルスが改善される可能性があることが判明しました。

F. prausnitzii potentially modulates the association between citrus intake and depression | Microbiome | Full Text
https://microbiomejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40168-024-01961-3

Eating citrus may lower depression risk — Harvard Gazette
https://news.harvard.edu/gazette/story/2025/02/eating-citrus-may-lower-depression-risk/

マサチューセッツ総合病院およびハーバード大学医学部に所属するRaaj Mehta氏らの研究チームによると、世界では2億8000万人の人がうつ病に苦しんでいるとのこと。それにもかかわらず、うつ病の正確な原因は不明で、患者の70%は抗うつ病薬による初期治療に反応しないか、または強い副作用が現れる問題に直面しています。

果物をふんだんに取り入れた地中海料理やかんきつ類がうつ病を予防することに注目したMehta氏らは、女性看護師を対象とした長期的調査「看護師健康調査II(NHS2)」のデータから食事アンケートなどのデータが十分にそろっている参加者3万2427人分のデータを抽出し、食生活とうつ病リスクの関係を分析しました。


研究チームが、参加者らのグレープフルーツとオレンジ、およびそれらのジュースの摂取頻度とうつ病リスクを調べたところ、かんきつ類の摂取頻度が最上位のグループの人は、最も少ないグループの人に比べてうつ病のリスクが22%低いことがわかりました。かんきつ類をたくさん食べるグループの人の摂取量は、中くらいの大きさのオレンジを1日1個食べるのに相当するとのことです。

この結果は、年齢やBMI値、喫煙や飲酒の習慣といったライフスタイルなど、さまざまな交絡因子を調整しても変わりませんでした。また、研究チームは果物全体や野菜、リンゴ、バナナの総摂取量でも分析を行いましたが、有意な関連性はみられなかったとのこと。つまり、うつ病リスクの低下は単に果物や野菜が豊富で健康的な食生活を送っていたことだけでは説明がつかず、かんきつ類に特有の効果だということが示唆されました。


この結果について、Mehta氏は「私たちは、かんきつ類をたくさん食べる看護師は、食べない看護師より将来のうつ病発症率が低いというエビデンスを見つけることができました」と話しました。

この研究の特筆すべき点は、NHS2に便サンプル提供者のデータが含まれていることです。研究チームが、サンプル中のDNA配列を解析して、かんきつ類の摂取と腸内細菌の種類との関連性を探した結果、うつ病ではない人の方がうつ病の人より「フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(F. prausnitzii)」という腸内細菌が多いことや、かんきつ類を多く食べる人はこの腸内細菌が多いことが確かめられました。


F. プラウスニッツィイは食物繊維を代謝して短鎖脂肪酸を生成する細菌です。研究チームによると、男性のライフスタイルを検証した別の研究データでも、腸内のF. プラウスニッツィイが多いとうつ病リスクが低いという結果が示されているとのこと。

Mehta氏は「『なぜF. プラウスニッツィイが人々の気分を改善させるのか』という疑問に対するひとつの答えは、この細菌が『S-アデノシル-L-メチオニンサイクルI経路』と呼ばれる代謝経路を通じて、腸内のヒト細胞によって生成されるセロトニンとドパミンのレベルに影響を与えるから、というものです」と説明しています。

研究チームが、かんきつ類に含まれるさまざまな栄養素について分析したところ、ビタミンCの摂取量はうつ病と関係がなかった一方で、かんきつ類の果皮や絞り汁に含まれるポリフェノールの一種である「ナリンゲニン」と「フォルモノネチン」という2つの成分がうつ病リスクの低下と関連していました。この2つの成分は、F. プラウスニッツィイの数とも相関していたことから、オレンジに含まれるこれらの栄養素が腸内細菌を増やし、気分を改善させる神経伝達物質の生成に影響を与えたのではないかと、専門家らは考えています。

研究チームは論文に、「私たちの研究結果は、かんきつ類がうつ病の発症に対して潜在的な保護的役割を果たすことを示すとともに、F. プラウスニッツィイとその代謝活動が、人の気分に対するかんきつ類やフラボノイドの影響を調整している可能性を示唆するものです。これらのデータは、腸内細菌叢(そう)がうつ病を予防するための食生活の改善や、分子情報に基づく新しいバイオマーカーの開発に役立つ可能性があることを裏付けています」と記しました。

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in サイエンス,   , Posted by log1l_ks

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