「山を見ればシカの通り道が分かる」という伝説の罠師にシカ狩りの極意を聞いてきた、なぜシカを狩る必要があるのかも分かる

古田洋隆さんはシカの捕獲と解体の達人で、全国の料理店が古田さんのシカ肉を指名買いしていたり、テレビに何度も出演していたりとシカ狩り界のエース的存在です。そんな古田さんのシカ肉解体作業の様子を見せてもらった際に、古田さんの達人的手技が垣間見えるエピソードや、「シカの害が深刻になっている」といった話も聞いてきました。
三重県|ジビエ:みえジビエ
https://www.pref.mie.lg.jp/CHISANM/HP/foodinnovation/85482045277.htm
シカは銃で仕留めたり箱罠(檻のような罠)で捕獲することもできますが、銃で仕留めると可食部が減ってしまい、箱罠で捕獲するとシカが罠の中で暴れて内出血を起こし肉の品質が下がってしまいます。このため、古田さんは脚に引っかけるタイプのくくり罠を使ってシカを捕獲しています。使う罠は古田さんが独自開発したもので、構造は企業秘密のため撮影不可。また、古田さんはシカの4本の脚のうち、どの脚に引っかけるかまで計算して罠を仕掛けられるそうです。
古田さんが罠にかかったシカを仕留める瞬間を撮影した写真が以下。シカの角攻撃を避けつつ、首元からナイフを心臓方向に突き刺し、心臓の血管を正確に切り取ってとどめをさして血抜きします。この仕留め方によって、適切かつ迅速な血抜きを可能としています。古田さんいわく、この仕留め方を実践しているのは世界中で古田さん1人だけとのこと。

仕留めたシカは作業場に運び込み、洗浄してその日の午前中に解体します。シカの解体手順はハンターごとに大きく異なり、中には「内臓を抜き取った後に、長時間つるして血抜きする」という手順を採用している人もいますが、古田さんは雑菌の繁殖を抑えてなるべく高品質な肉を切り出すために早朝に仕留めたシカを午前中に解体しています。

解体作業時には衛生管理を徹底しており、「シカを洗って内臓を抜き取る場所」「シカを電動ノコギリで半分に切断する場所」「シカの肉を切り分ける場所」が厳格に分けられています。また、手洗いやアルコール消毒も欠かさず実施。

さらに、電動ノコギリや包丁などの器具の殺菌も入念に行っているほか、電動ノコギリでシカを切断する際には毎回新品の白衣を着用しています。以下の写真は、電動ノコギリの刃を100度の熱湯が入ったポットに浸して殺菌しているところです。

シカの切断から肉の切り分けまでの詳しい作業手順は、以下の記事にまとめています。
猛スピードでシカ肉を解体する伝説の罠師の超絶技巧を間近で見せてもらったよレポート - GIGAZINE

解体作業を見せてもらった後に、色んな話を聞かせてもらいました。以下の写真は捕獲したイノシシを背負って山を下りるところを撮影したもの。死んだ後の動物は「水が入った袋」のようなもので、重心が定まらないため背負うだけでもひと苦労とのこと。

これは、古田さんが山に入る際に背負っている道具入れです。

持たせてもらいましたが、かなりの重さ。

古田さんは軽々と担いでいます。

作業場は山に囲まれています。古田さんは山に入って地形を見るだけで、シカやイノシシの通り道を把握できるとのこと。シカの通る場所だけでなく、「どの位置をどの脚で踏むか」まで予測可能で、「4本の脚のうち、どの脚を罠にかけるか」までコントロールするという神業をやってのけています。また、山に入らずとも、初見の山を高速道路から眺めるだけで獣の歩く道をイメージできるそうです。

多くの道具を自分で作っているというのも驚きポイント。これは、シカの角を柄として使った包丁です。刃はアルミから削り出して作業しやすい形に加工しています。

シカをつり下げるハンガーも自作のもの。

射撃の腕前も達人級。100m離れた的のド真ん中を2発撃ち抜いています。

この的も、真ん中しか当たっていません。罠にかかったシカを回収に行く際に、「罠の周囲を歩くシカ」を見つけることもあるとのこと。こういったシカは猟銃で目などを撃ち抜いて無力化した上で、ナイフで仕留めています。頭部を撃ち抜くと即死してしまって古田さん特有の血抜き手法が使えなくなってしまうほか、体を撃ってしまうと可食部が減ります。このため、無力化しつつ即死することもない「目」をピンポイントで狙う必要があるというわけです。

山に入っていると、1日の間にスズメバチに複数回刺されてしまうこともあるそうです。古田さんの家には山で見つけた巨大なスズメバチの巣も保管されていました。

これは、作業場の裏手にある林。

よく見ると、シカによって木の皮がベロベロに剥がされています。根元から皮を剥がれた木は、それ以上成長できなくなります。

シカによる林業への被害は深刻で、林野庁の報告では2023年の野生鳥獣による森林被害面積のうち、約6割はシカによるものだったことが明らかになっています。

また、シカは山の中だけでなく民家周辺に出てくることもあり、畑の作物を食べたり、車にぶつかって交通事故を起こしたりといった被害も出ています。古田さんの作業場の裏にもシカのフンが落ちていました。

近年はハンターの数が減っており、シカの個体数は増加しています。このため、シカの被害を抑えるためにはハンターの増加が必要不可欠。古田さんはシカの捕獲方法や解体方法を後世に受け継ぐことをライフワークとしています。今回の取材時にも、娘の愛さんと一緒に解体作業をしていました。

また、捕獲や解体処理の手順をマニュアル化して高品質なシカ肉を生産する三重県の取り組み「みえジビエ」にも協力しており、三重県が開催する講習会に講師として参加するなど後進の育成に取り組んでいます。
「みえジビエ」の業績は三重県の内外に知れ渡っているようで、今回の取材のために車で移動しつつラジオで国会中継を聞いていたところ、石破茂首相が前三重県知事の鈴木英敬衆議院議員の質問に答える形で「みえジビエ」に言及しているところを偶然聞くことができました。当該発言は、以下の動画の57分17秒頃から確認できます。
【国会中継】衆院予算委員会 石破首相出席で集中審議(2025年3月3日) - YouTube

なお、「みえジビエ」では捕獲や解体だけでなく、加工についても厳しいマニュアルを整備しています。以下の記事では、「みえジビエ」の加工処理業者として認められた株式会社サンショクでのハンバーグ作りの工程を確認できます。
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