「ネット上で最も古い嘘」の一次ソースを探索した結果とは?
インターネットではデマや都市伝説がまことしやかに語られ、なぜそれが語られるようになったかも忘れ去られてしまったものがいくつもあります。「人間の血管は地球を2周半するほどの長さ」というウワサはソース不明でありながら真実のように語られる、インターネットでも最古のウワサのひとつです。なぜこのウワサが誕生したのか、そのウワサは正しいのかなどについて、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtがアニメーションで解説しています。
We Fell For The Oldest Lie On The Internet - YouTube
「人体に張り巡らされている血管を、毛細血管なども含めて全てつなげると、地球を2周半できる長さにあたる約10万kmに達する」という話は、人体の不思議としてしばしば語られます。実際に「血管 地球2周半」とGoogle検索してみると、さまざまな病院や大学、メディアなどが豆知識として語る記事がヒットします。
しかし、人体の内部構造には依然としてわかっていないことも多く、慶應義塾大学医学部医学研究科の特集記事では「一説では全長10万km、地球2周半分ともいわれるヒトの血管。それが私たちの体の中で一切絡み合うことなく走行しているというのは、考えてみれば不思議な現象だと思いませんか。実は、いまだに解明されていない構造や機能が山ほどある領域なのです」と解剖学の教授が語っています。そんな中で「人体の血管は地球2周半分」とどうやって判明したのか、ソースを知っている人がいなかったとKurzgesagtは指摘。
また、Kurzgesagtによると、「人体の血管は地球2周半分」と語っているインターネット記事などにおいて、「毛細血管を全て広げた長さが10万km」とするものや、「動脈と静脈を合わせた長さが10万km」と語る人、それらを合わせた長さが10万kmだとする記事など、詳細もバラバラだったそうです。
そこでKurzgesagtは、「人体の血管は地球2周半分」という豆知識のオリジナルとなるソースを探索しました。しかし、数千ものサイトやブログ、書籍を参照しても、お互いにソースとしてインターネットの記事や本を参照しあっているような状況で、なかなかたどり着けなかったとのこと。さらにKurzgesagtは、医学関連の文献検索データベースであるPubMedで「人体の血管は10万km」と検索してみましたが、結果は1件もヒットしませんでした。
よりオリジナルに近いソースを探索するため、Kurzgesagtは「1990~1995年」と年代を指定した上で、改めて血管の長さについて検索を進めました。すると、デューク大学の動物学教授であるスティーブン・ヴォーゲル氏の「Vital Circuits」、ブリティッシュコロンビア大学の遺伝学教授であるデビッド・スズキ氏による「Looking at the Body」の2冊の本がヒットしました。
特にスズキ氏はカナダで科学番組キャスターとして人気があり有名なため、スズキ氏の発言からウワサとして広がった可能性をKurzgesagtは考えました。そこで実際に「Looking at the Body」を読んでみたところ、本文に「人体の血液を直列に並べたら9万6000kmにも達します。これは、世界中を2回半回ることができる長さです」という記述が発見されました。しかしここでも、具体的なソースは示されていません。Kurzgesagtはスズキ氏に直接ソースを問い合わせてみましたが、「30年も前の本であるため、ソースは覚えていません」と回答があったそうです。
また、ヴォーゲル氏の「Vital Circuits」にも、「血管の長さは10万km。赤道における地球の円周の2倍以上」という記述があります。Vital Circuitsにはいくつもの論文がソースとして示されており、具体的にどの情報ソースがどの論文かは指定されていないため探索には苦労したものの、Kurzgesagtはアメリカの老舗科学雑誌であるサイエンティフィック・アメリカンの1959年の記事「La microcircolazione del sangue(血液の微小循環)」にたどり着きました。これも一次ソースではありませんでしたが、データのソースを示しています。
サイエンティフィック・アメリカンが「血管の長さは10万km」という情報のソースとして示したのは、デンマークの生物学者であるアウグスト・クローグ教授による1929年の著書「The Anatomy and Physiology of Capillaries(毛細血管の解剖学と生理学)」です。
「The Anatomy and Physiology of Capillaries」はクローグ教授の講義の様子を記録した本で、講義では主にアイデアや仮説を実験と統合した研究内容を概説しています。そのうちのひとつに、「毛細血管は1平方mmあたり約2000本あります。体重50kgの成人男性の体を想定すると、毛細血管の全長は10万kmくらいになります。これは、縦につなげると地球を2周半する長さで、横に広げると6300平方mの表面を覆い尽くすことができます」という記述がありました。Kurzgesagtは、これこそが「人間の血管の長さは地球を2周半する」というインターネットのソース不明のウワサにおける一次ソースであると結論付けています。
ただし、クローグ教授が実験して計算した内容は、現代の科学基準から考えると正確ではない可能性があるとKurzgesagtは指摘しています。Kurzgesagtによると、実験ではさまざまな動物の筋肉サンプルを分析した上で、人の毛細血管密度に関する推定値を算出していますが、その計算はかなり不正確であるそうです。また、体脂肪率や筋肉量などがかなり理想的な人をサンプルにした計算になっており、一般的な成人男性のデータとは離れている可能性もあります。問題は、クローグ教授にとっては単なる興味深いアイデアと計算方法の例として示した内容が、その後30年も真偽不明のまま広がり続け、早い段階でソースも不透明になっていた点にあります。実際に、2021年に同様のデータを計算した研究では、毛細血管の全長は地球を半周もできない「9000km~1万9000km」と推定されています。
Kurzgesagtは「インターネットで何かの情報を検索すると、それらしい答えがすぐにヒットします。しかし、インターネットの記事も、ときには科学者の論文であっても、一次ソースが示されておらず二次三次ソースを引用し続けていることがあります。そのような場合、情報はわかりやすい数字になったりインパクトのある表現だけが残ったりと、少しずつゆがめられていきます。今回私たちが体験したように、一次ソースを探ることはあまりにも難しいものですが、一次ソースおよびその信頼性を気にすることは、情報のワナにハマらずによりよい知識を得ていくために重要です」とまとめています。
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