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キリスト教の正典である福音書の起源に迫る「Q資料仮説」とは?


キリスト教の正典である新約聖書には、「マルコによる福音書」「マタイによる福音書」「ルカによる福音書」「ヨハネによる福音書」という4つの福音書が含まれています。そのうち「マタイによる福音書」「ルカによる福音書」には、ソースとしてイエス・キリストの語録集が存在していると考えられており、これは「Q資料仮説」と呼ばれています。

Is the Q Source the Origin of the Gospels?
https://www.thecollector.com/q-source-origin-gospels/


マタイ・マルコ・ルカによる福音書には、それぞれ似たような構造、同様の言葉づかい、同様の物語を語っている箇所があり、これら3つの福音書は「共観福音書」と呼ばれています。

また、西暦65~70年に記されたとされるマルコによる福音書を基に、西暦80年~95年の間にマタイ・ルカによる福音書が記されたと考えられています。そのため、これらの福音書には多くの類似点が存在していますが、一方でマルコによる福音書には現れないものの、マタイ・ルカによる福音書には現れる文学的な類似点も見つかっています。こうした類似性から、マタイ・ルカによる福音書の著者がマルコによる福音書以外のソースを用いたのではないかという仮説が生まれました。マタイ・ルカによる福音書の基となったと考えられる資料は、ドイツ語で「出典」を意味する言葉「Quelle」の頭文字を取って「Q」と呼ばれるようになりました。


研究者たちはマタイ・ルカによる福音書の類似性をもとに、「Q」がキリストの言葉であることを推察しました。一方、これらの福音書は物語の類似性が欠如していることから、「Q」は物語としての枠組みを持たない、キリストの語録集であると予測されています。

「Q」をもとにした「Q資料仮説」は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、マタイ・ルカによる福音書の類似性を説明する手段として発展しました。特に、ヨハン・アイヒホルンとハインリヒ・ホルツマンという2人のドイツ人聖書学者は、「Qはヘブライ語またはアラム語で記されており、これが共観福音書の源である」と仮定しています。


その後、さまざまな研究者がマタイ・ルカによる福音書を分析し、その類似性を用いて元の資料を特定して「Q」を再構築しようという試みが生まれました。また、初期キリスト教の論述である「ディダケー」や「トマスによる福音書」などの作品からも「Q」の再構築に向けた研究が進められているとのこと。

これまでの研究で、「Q」はキリストの語録集であることから、キリストの誕生や十字架刑、復活の物語といった項目が含まれていないことが推測されています。

しかし、これまでに「Q」が存在したことを示す証拠の発見には至っていません。それでも、「Q」が存在した可能性は高いとされており、その理由は多岐にわたります。1つは、マルコによる福音書には記されていない「倫理的な教えや知恵のことわざ、神の王国についての教え」に関する項目で、マタイ・ルカによる福音書では言葉づかいや順序が共通している部分があるとのこと。そのため、マタイ・ルカによる福音書が共通の資料を用いていることが示唆されています。


また、これまでの統計分析で、マルコによる福音書にはみられない箇所で、マタイ・ルカによる福音書には一致している部分があることが統計的に明らかになりました。そのため、「Q」の存在が定量的に示されています。

さらに、マタイ・ルカによる福音書内でもそれぞれ順序と言い回しが異なることから、ルカによる福音書の執筆の際にマタイによる福音書からコピーした可能性は低く、共通の情報源を共有していたことが推察されています。海外メディアのThe Collectorは「それぞれの筆者が、同じ資料を基に自分のスタイルや物語、焦点に合わせて執筆したようです」と述べました。

しかし、「Q」の存在を突き止める研究が進む一方で、「マルコによる福音書もまた『Q』のような資料を活用して執筆された」という、「Q」が3つの共観福音書すべての源となったという別の仮説や、「マタイによる福音書はマルコによる福音書を基に記され、その両方を基に執筆されたのがルカによる福音書」という、「Q」の存在を排除する「ファーラー仮説」も生まれています。


Q資料仮説の弱点は、「Q」を突き止めようとする懸命な学術的努力が行われているにもかかわらず、物理的に「Q」のテキストを見つけることが不可能という点にあります。Q資料仮説は、統計的および文学的な分析と推論に基づいており、その存在を裏付ける実際の資料などが見つかることはありません。そのため、「Q」の存在を証明するための証拠として正当化されない可能性が指摘されています。

The Collectorは「キリストの誕生や死、復活といった福音書としての本質への言及が『Q』には欠如しているため、『Q』は福音書としての情報源としては役立たないかもしれません。しかし『Q』はキリストの言葉の情報源としては最適です」と語りました。

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in メモ, Posted by log1r_ut

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