全長約2300万光年という史上最大のジェットが約75億光年離れたブラックホールから放出されていると判明
by S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF)
ブラックホールは、極端に重力が強いために周辺の時空が大きくひずみ、物質だけでなく光さえ脱出できなくなるといわれています。しかし、ブラックホールはその強い重力で周囲の物質を吸い込むだけでなく、光速の99%以上という速度で周囲の物質を噴出する「ジェット」という現象を見せることがあります。はるかかなたの銀河で長さ2300万光年という巨大なジェットが観測されたと報告する論文が発表されました。
Black hole jets on the scale of the cosmic web | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07879-y
Astronomers discover biggest ever seen black hole jets, which blast hot plasma well beyond their own host galaxy
https://phys.org/news/2024-09-astronomers-biggest-black-hole-jets.html
研究チームは、ギリシャ神話に登場する巨人族にちなみ、このジェットを「ポルピュリオン」と名付けています。
同じくギリシャ神話の巨人である「アルキュオネウス」は約30億光年かなたにある銀河から噴出されるジェットの名前になっています。このアルキュオネスは天の川銀河100個分の大きさであり、これまで観測されたジェットの中で最大であるとされていました。しかし、今回発見されたポルピュリオンは天の川銀河は140個並べた長さに匹敵する7メガパーセク(約2300万光年)というサイズで、アルキュオネスを上回る規模でした。
ポルピュリオンのジェットは、ヨーロッパのLOFAR(低周波アレイ)電波望遠鏡で発見されました。以下の画像が、LOFAR電子望遠鏡がとらえたポルピュリオン。
ポルピュリオンを放出する銀河を特定するため、研究チームはインドのGMRT望遠鏡やDESIプロジェクト、ハワイのケック天文台のデータも使用。その結果、ポルピュリオンが地球から75億光年離れた、天の川銀河の約10倍の質量を持つ巨大な銀河から発生していることが明らかになりました。75億光年離れた銀河から放出されているということは、今観測されるポルピュリオンは宇宙が今よりもずっと若い頃に放出されたものということになります。
75億年前の宇宙では、「コズミックウェブ」と呼ばれる銀河同士のネットワークが現在よりも密接に繋がっていたと考えられています。そのため、ポルピュリオンのような巨大なジェットは、現在と比べてより広範囲のコズミックウェブに影響を及ぼしていた可能性があります。
研究チームによると、LOFAR電波望遠鏡は宇宙の約15%しかカバーできていないと指摘し、ポルピュリオンよりももっと遠い宇宙に巨大なジェットが複数存在する可能性を示唆しています。研究チームの1人であるカリフォルニア工科大学のMartijn Oei氏は「私たちは氷山の一角を見ているに過ぎないのかもしれない」とコメントしています。
研究チームは今後、これらの巨大なジェットが周囲の環境にどのような影響を与えるのか、特に宇宙空間に磁場をどの程度広げているかを調査したいと述べています。
・関連記事
「ブラックホール」のさらに鮮明なカラー画像をイベントホライズンテレスコープが公開 - GIGAZINE
スパコンで1年かけてシミュレートしたブラックホールがスパゲッティ化した星を取り込む動画が公開される - GIGAZINE
銀河の中心にある超巨大ブラックホールが突然「覚醒」したのを天文学者が初観測 - GIGAZINE
超大質量ブラックホール「いて座A*」の新画像により渦を巻く強烈な磁場が初めて捉えられる - GIGAZINE
科学者が実験装置内で「量子竜巻」を生成しブラックホールの重力状態の模倣に成功 - GIGAZINE
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2023年に撮影した劇的な画像トップ15、最も遠いブラックホールや超新星残骸「かに星雲」など - GIGAZINE
・関連コンテンツ