サイエンス

暗黒物質の存在しない銀河が報告される

by Bryan Goff

銀河の形成に携わり、天体の動きにも大きく関わっている「暗黒物質(ダークマター)」が存在しない銀河が発見されました。「暗黒物質の存在しない銀河」がどのような意味を持つのか、物理学者が議論するところとなっています。

Hubble finds first galaxy in the local Universe without dark matter | ESA/Hubble
http://www.spacetelescope.org/news/heic1806/

Astrophysicists Claim They Found a 'Galaxy Without Dark Matter'
https://www.livescience.com/62151-galaxy-dark-matter-physics.html

Astronomers Boggle at Distant Galaxy Devoid of Dark Matter - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/astronomers-boggle-at-distant-galaxy-devoid-of-dark-matter/

たくさんの星が回転する銀河を観察すると、重力や運動の法則から求められる回転速度とは大きく異なる速度で天体が回転している様子が見られます。「実際に観察できるよりも天体の質量が大きいようにしか思えない」という現象を説明するために、科学者らは光を出さずに質量エネルギーのみを持つ暗黒物質が存在するという仮説や、力学の法則を修正する修正ニュートン力学(MOND)を用いていました。

しかし、新たな論文では、「暗黒物質が存在せず物理法則通りの動きを見せる銀河」の存在が報告されました。

くじら座の方向に地球から約6500万光年離れたところにある「NGC 1052–DF2」と呼ばれる銀河を、ハッブル宇宙望遠鏡、ジェミニ天文台、W・M・ケック天文台が長期にわたって観察したところ、「銀河が暗黒物質による修正を必要とせずに物理法則に従って動いていること」がわかったとのこと。

by Ian Rinefort

この論文についてLive Scienceが複数人の物理学者に意見を求めたところ、その多くが「論文は暗黒物質の存在をよりもっともらしいものにした」とコメントしたといいます。

研究に参加していないローレンス・バークレー国立研究所のKathryn Zurek氏はLive Scienceの取材に対し、今回の発見は「MONDを収めるひつぎの1つのクギであると考えています」「銀河における暗黒物質の不在は、暗黒物質がバリオンとは別個の物質として振る舞っていることを示します」と語っています。これはつまり、もし宇宙に暗黒物質が存在せずMONDで質量問題が説明されるとすれば、NGC 1052–DF2でも他の場所と同じく質量問題が発生しているはずだということから、逆接的にMONDの存在が否定されるということを意味します。

Zurek氏は今回の研究結果が暗黒物質の存在をより説得力のあるものにしたと見ていますが、一方で「暗黒物質の存在しない銀河」は別の方向でも謎を深めます。

2018年現在、ビッグバンから始まる宇宙形成のシミュレーションの中で、暗黒物質がどのように生み出されたのかが示されています。目に見えている通常の物質の重力だけでは銀河は形成できないため、暗黒物質が重力で宇宙に漂うガスを引きつけ、ガスが集まったものがボール状になり、それが輝き、惑星や銀河の形になったというのが主たる仮説です。このシミュレーションに関して、フェルミ国立加速器研究所の物理学者で今回の研究には参加していないDan Bauer氏は「暗黒物質の存在しない銀河があるとすれば、私たちはその銀河が『どうやって形作られたのか?』ということを問いかけなければなりません」と語りました。Bauer氏は、NGC 1052–DF2の存在は暗黒物質理論の基本原則を揺るがすものではないものの、「驚くべきものであり、天体物理学者に銀河形成の新しいモデルを開発させる力を持つものである」と述べています。

一方で、ケース・ウェスタン・リザーブ大学の天体物理学者であり、論文執筆には携わっていないStacy McGaugh氏は、今回の論文がMONDを否定し暗黒物質の存在を支持するという考え方に否定的です。「私の経験からいって、MONDにおいて意味をなさないことは、通常、暗黒物質においても同様に意味をなしません」とMcGaugh氏は語っており、今回の発見はどちらかの理論を強めるものではなく、いずれにとっても課題となるという見方を示しています。また、銀河の形成についても、「銀河同士の衝突」など、他にも方法があると語っています。

by Rodion Kutsaev

さらに、McGaugh氏は、今回の論文の結論が少数のデータに依存しているという点を指摘。研究者らはNGC 1052–DF2の回転速度を銀河にある10個の物質から割り出していますが、McGaugh氏によると、銀河の速度を正しく計測するには10個では不十分であるとのこと。「さらなるデータが得られることによって、10個のデータで十分だったのか、あるいは10個では不十分だったのかが明らかになります。どれくらいデータがあれば信頼に足るかという問題は非常に難しいのです」とMcGaugh氏は語りました。このほか、McGaugh氏はNGC 1052–DF2の動きが近隣の銀河から影響を受けている可能性も示していますが、いずれにしろ、さらなるデータが必要とされています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa