「宇宙に巨大な太陽光発電所を置いて地球に送電する」というアイデアの望みが薄い理由を宇宙産業のエキスパートが解説
By EUROPEAN SPACE AGENCY (ESA)
太陽光発電はクリーンエネルギーとしてもてはやされているものの、広大な土地を必要としたり、出力が天候に左右されたりするという問題があります。「太陽光発電所を宇宙に設置して地上へ送電する」というアイデアは24時間安定して発電できたり大気に遮られず高い出力を得られたりと優れているように思えますが、なぜ実現できそうにないのかを宇宙産業のエキスパートであるアンリ・バルデ氏が解説しています。
Space-Based Solar Power: A Skeptic's Take - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/space-based-solar-power-2667878868
バルデ氏は「MATRA Espace」(現エアバス・ディフェンス・アンド・スペース)で27年間宇宙産業のエンジニアリングを担当し、2007年から2017年まで欧州宇宙機関で電力システム・電磁適合性・宇宙環境部門の責任者を務めた宇宙産業のエキスパートです。
「太陽が常に輝いている場所に太陽光発電所を設置する」というアイデアはきわめて自然な発想で、これまで多数の人が赤道上空約3万6000kmの静止軌道に太陽光発電所を建設する計画を試みてきました。宇宙に設置することで春分と秋分前後の期間を除き24時間安定して稼働可能で、地上の大気に遮られていない強い日光を使用できるというメリットも存在しています。
日本のJAXAをはじめ、中国やアメリカ、EUなど多数の国・地域が宇宙太陽光発電の研究を進めており、アメリカ海軍研究所はすでに約1km離れた2つの地上アンテナ間で1kwを超える電力を送信することに成功しています。欧州宇宙機関は2022年にSolarisという宇宙太陽光発電プログラムをデビューさせており、10年~20年かけて宇宙太陽光発電を実現可能かつ競争力のあるものにすると述べています。
こうした状況において、宇宙太陽光発電の実現は近そうに思えますが、バルデ氏によると「欧州宇宙機関の宇宙電力システム責任者としてこれまで数十ものミッションの発電・エネルギー貯蔵・電気システムの設計に30年以上取り組んできた経験から言うと答えはほぼ確実に『ノー』だ」とのこと。
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