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大企業や富裕層が税金対策に悪用する「ペーパーカンパニー」の所有者を見つけるコツをジャーナリストが解説


ペーパーカンパニーは正式に法人登記されているもののビジネスの実態がない会社のことで、企業や大富豪の税金対策や、違法であったり制裁を受けたりした企業の所有者を隠すために使われることがあります。「巧妙に隠されているペーパーカンパニーの本当の所有者を見つけるコツ」を、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)のジャーナリストであるカリー・キーオ氏が解説しています。

Tips for Linking Shell Companies to their Secret Owners – Global Investigative Journalism Network
https://gijn.org/stories/tracking-shell-companies-secret-owners/


ペーパーカンパニーとそのultimate benefit owners(真の受益者:UBO)を発見することは、ICIJや組織犯罪と汚職報告プロジェクト(OCCRP)などのジャーナリスト団体・ネットワークにとって重要な調査分野となっています。キーオ氏は2024年3月にアメリカで開催されたデータ分析ジャーナリズムの年次カンファレンス・NICAR 2024で単独講演を行い、怪しげな団体の頂点にいる人物やその海外資産を追跡するためのコツについて共有しました。

まずキーオ氏は、「ペーパーカンパニーが提出する書類には何が書かれているのか?」を考えることが重要だと指摘しています。たとえタックスヘイブンであるパナマやイギリス領ケイマン諸島に設立される企業とはいえ、ペーパーカンパニーが法人化されるためには必ず書類が必要であるため、ペーパーカンパニーの提出書類が調査の手がかりになるとのこと。


大企業や大富豪がペーパーカンパニーを設立する際、一般的に必要な手続きや書類の記入を「formation agents(フォーメーションエージェント)」と呼ばれる代理店に依頼します。これらの代理店は裕福な顧客の依頼を受けてペーパーカンパニーの設立を請け負い、追加料金を支払えば銀行口座や身代わりとなるディレクターの名義、秘書サービスなどを提供するそうです。しかし、正式な会社の住所や何人かの取締役の実名、ビジネスの性質に関する文書といった基本的な事項は正しく記入しなければなりません。

実際、2021年にヨルダンの国王であるアブドゥッラー2世の海外資産を調査していたキーオ氏らは、タックスヘイブンに設立されたペーパーカンパニーのネットワークを通じて、国王がイギリスやアメリカに14軒もの高級住宅を秘密裏に所有していることを突き止めました。この調査で決め手となったのは、関係書類に国王の氏名や生年月日、そして宮殿の住所が記されていたことだったそうです。

キーオ氏は、調査ジャーナリストが探しているのはペーパーカンパニーのディレクターや所有者としてリストされている人物ではなく、その背後にいる「真の受益者」であると指摘。「オランダにいる人物が香港のフォーメーションエージェントに注文し、クック諸島やシンガポールでペーパーカンパニーを設立するかもしれません。そしてフォーメーションエージェントは、秘書サービスや仮の住所、名目上のディレクターの名前を提供します。100社以上の会社の取締役としてリストされているその人物は、アゼルバイジャンのタクシー運転手かもしれません。彼は会社とは何の関係もありませんが、多少のお金を受け取っていたり、誰かの親族だったりします」と述べ、ペーパーカンパニーの代表者はあくまで身代わりのことが多いと説明しています。


具体的にキーオ氏が挙げた「ペーパーカンパニーの調査を行う際のヒント」は以下の通り。

◆データベースで会社名や個人名を検索する
調査ジャーナリストはまず、OpenCorporatesなどのデータベースで調べたい会社名や個人名を検索することから始めるとのこと。OpenCorporatesには140以上の政府登録簿に含まれる2億2000万社を超える企業がリストされており、キーオ氏もまずOpenCorporatesで検索すると述べています。もしOpenCorporatesでめぼしい情報が見つからなかった場合、有料データベースのSayariOrbisFactivaなどで調べると有益な結果が得られることもあります。

◆億万長者の立場になって考える
キーオ氏は、億万長者や真の受益者がどんなものに関心を持っているのかを考えることで、より効率的な調査ができると主張しています。キーオ氏は「億万長者について言えることは、彼らが買えるものは限られており、非常に予測しやすいということです。彼らはしばしばロンドンや南フランスの高級物件を持ちたがり、大きなヨットやジェット機、美術品、スポーツチームなどを欲しがります」と述べています。そのため、「特定の管轄区域で最も裕福な地域」に的を絞って検索するだけで、富裕層の隠された資産を見つけ出すのが簡単になるとのこと。


◆ICIJの調査データベースを調べる
ICIJは富裕層の租税回避を明らかにするパナマ文書パンドラ文書パラダイス文書などに関するデータベース「ICIJ Offshore Leaks Database」を公開しています。このデータベースには200カ国の81万を超えるオフショア企業・財団・信託に関する調査結果が含まれており、ジャーナリストはこれらのデータを自由に検索して調査に役立てることが可能です。

なお、これらのデータベースに会社名や人名、住所などを入力すると関連するデータが見つかりますが、データベースに載っているからといってその人物が何かしらの罪を犯していたり、不正行為に関与していたりするわけではありません。あくまで関連する地域に会社を持っていたり、関係者として名を連ねていたりするだけなので、データの解釈にはさらなる調査が必要とのこと。

◆OCCRPのデータベースを調べる
OCCRPのデータベースであるAlephには、141カ国の公的機関にまたがる膨大なデータが保存されており、企業の登記抹消やさまざまな裁判記録を検索できるとのこと。このデータベースを駆使することにより、特定の会社や人物を犯罪に関連付けることも可能だそうです。


◆さまざまなスペルを試す
たとえば「Dún Laoghaire(ダン・レアリー)」という町に関連する人物や不動産を調べる場合、ジャーナリストは「Dún Laoghaire」だけでなく「Dún Laoire」「Dunleary」などのつづりも試してみるべきです。キーオ氏は「地名に違うつづりを試してみると、意外と検索結果が見つかるでしょう」と述べ、海外の住所を調べる時は英語をそのまま入力するだけでなく、現地の言葉を英訳して入力したり人名のつづりを変えたりと、いろいろな手段を試してみるべきだとアドバイスしています。

◆国境を越えたビジネスのつながりを調べる
国境を越えた隠されたビジネス上のつながりを調べるには、Open OwnershipRegister of Overseas EntitiesTenders Electronic Dailyなどのデータベースを検索することが役立つそうです。

◆大富豪の親族を調査する
特にロシアのオルガリヒなどは親族の名義で資産を持っていることが多いため、大富豪本人だけでなく親族について調査することも有効です。RuPEPというデータベースはロシア・ベラルーシ・カザフスタンなどにまたがる数千人もの政治的有力者や制裁の対象者、その親族、法人などの関係をプロファイリングしており、研究の出発点として有益だとキーオ氏は述べています。


最後にキーオ氏は、「粘り強く続けること」が調査ジャーナリストにとって重要だとアドバイスしています。「真の受益者は『フォーメーションエージェントが自分たちを調査から守ってくれる』と本当に信頼しており、彼らと多くのものを共有しています。そのため、パスポートや公共料金の請求書をスキャンして送ってしまい、住所がリークされたりデータベースに掲載されたりすることがあるのです」とキーオ氏は述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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