悲しみや怒りなどのネガティブな感情は生きるために役立つこともあり悪いことばかりじゃないと研究者が主張
大切なパートナーと別れて深く悲しんだり、理不尽な目に遭って怒ったり、大きなイベントを控えて不安になったりと、日常生活においてネガティブな感情は常に付きまといます。「いっそのこと悲しみなんて感情が消えてしまえばいいのに」と思った経験がある人もいるかもしれませんが、テキサスA&M大学の心理学・脳科学者であるヘザー・レンチ氏は、ネガティブな感情が時に役立つこともあると主張しています。
Anger, sadness, boredom, anxiety – emotions that feel bad can be useful
https://theconversation.com/anger-sadness-boredom-anxiety-emotions-that-feel-bad-can-be-useful-217654
レンチ氏は、人々はネガティブな感情を避けたり無視したりしようと考えがちなものの、実際にはネガティブな感情が特定の状況で有益になることもあると指摘。そこで、「悲しみ」「怒り」「不安」「退屈」という4つのネガティブな感情について、どのようなメリットがあるのかを解説しています。
◆悲しみ
悲しみという感情は、目標達成に失敗したり大切なものを失ったりして、もはや自分では状況を改善できないと感じた時に発生します。悲しみは心理学者が「deactivation state of doing little(ほとんど何もしない不活性化状態)」と呼ぶ状態と関連しており、行動や身体的興奮につながらない代わりに、より詳細で分析的な思考をもたらして「立ち止まって考えさせる」とのこと。
何か大切なイベントで失敗してしまい状況を改善できない場合、悲しむことで立ち止まり、一歩下がって何が起きているのかを評価できるとレンチ氏は指摘。悲しみはより正確な記憶をもたらし、無関係な情報の影響を受けにくくして、他人のうそをより高精度で検出できるようにしてくれるとのことで、これらの認知的変化によって人々は過去の失敗から学び、将来の失敗を防ぐことができるとレンチ氏は主張しています。
一方、「何かに失敗したものの誰かの助けが得られれば改善できる」という状況では、悲しみが異なる機能を持つこともあります。このような状況では、悲しみによる涙や生理的興奮による感情表現が、助けてくれる誰かを引き寄せてくれる可能性があるとのことです。
◆怒り
怒りという感情は、目標や望ましい結果を失っているものの、障害を取り除くことで状況を改善できると感じた時に生じます。障害は他人による不正行為である場合もあれば、何度もクラッシュするコンピューターである場合もありますが、いずれにせよ怒りは障害に焦点を当てた「行動の準備」につながるとのこと。
行動の準備を促して障害に目を向けることの利点は、目標達成の障害を克服するモチベーションが高まることです。怒っている人は情報処理や判断が速くなり、身体的なパフォーマンスが向上することや、困難なタスクを解決する能力が高くなるという研究結果も報告されています。また、怒ることの副次的な効果として、他人を威圧して交渉で譲歩させやすくなるといったものも挙げられます。
怒っている人は普段通りの人よりも困難なタスクを解決する能力が高いという研究結果 - GIGAZINE
◆不安
不安という感情は、人が潜在的な脅威を知覚した時に生じます。これは「大事なスピーチで失敗して恥をかくかもしれない」といったものから、「自分や家族が地震で被害を受けるかもしれない」といったものまでさまざまであり、人は不安を覚えると危険に対応する準備を行います。
不安を感じると警戒心が高まり、目を大きく見開くことで視野を広げて危険を察知しやすくなるとレンチ氏は指摘。そのため、不安を感じてあらかじめ危険に備えておくことで、トラブルが発生した際により迅速に対応したり、トラブルを未然に防止したりしやすくなるとのことです。
◆退屈
退屈についての研究はその他の感情と比べて少ないものの、現在の状況が何かしらの感情的反応を引き起こしていない時に生じると考えられています。しかし、楽しいことを期待して出向いたパーティーがつまらなかった時には退屈を感じるものの、リラックスしたくてぼーっとしている時には退屈を感じないなど、感情が喚起されないからといって退屈を感じるわけではありません。
研究者らは退屈のメリットとして、何かしらの変化を起こすことを促すというものを挙げています。退屈は人々が新しい状況に飛び込もうとしたり、考え方を変えたりする動機付けとなり、リスクの追求や創造的な思考に関連しているとのこと。レンチ氏は、「退屈は感情のつえのようなもので、人々を現状から解き放ち、探求し、想像するように駆り立てるのです」と述べています。
レンチ氏は、「人は幸せを求めるものですが、満足のいく生産的な人生には、ポジティブな感情とネガティブな感情が混在していることが研究でわかりつつあります。ネガティブな感情は気分が悪いものですが、失敗・挑戦・脅威・探求に対する人々のモチベーションを高めて準備させることができます。楽しいものであれそうでないものであれ、感情はあなたをより良い結果へ導くために役立ちます。もしかしたら、感情がさまざまな状況に対処する準備をしてくれるのだと理解することで、ネガティブな感情を経験することが楽になるかもしれません」と述べました。
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