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核戦争の後にやってくる「核の冬」はどれほどの人間を殺すのか?


核兵器を保有する大国間の緊張が高まると、「人類を滅ぼす核戦争が起きるのではないか」と心配になる人もいるかもしれません。核戦争そのものを生き延びてもその後にやってくる「核の冬」が大勢の人々を死に追いやるとのことで、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが核の冬について解説しています。

...To Survive a Nuclear War - YouTube


ひとたび核戦争が起きれば、人類の歴史は「核戦争前」と「核戦争後」に分かれることは確実です。大規模な核戦争が起きれば膨大な面積が爆発の衝撃と大規模火災で破壊され、数億人が死亡する可能性がありますが、核戦争が引き起こす最悪の事態はその後にやってくるとのこと。


それが「核の冬」と呼ばれる現象です。核の冬は最大数十億人を死に追いやり、最悪の場合は現代文明を完全に崩壊させる可能性すらあるとKurzgesagtは主張しています。


核爆弾が爆発すると、まずは爆心地の周囲数kmの範囲が衝撃波と高温の爆風によって破壊し尽くされ、その周辺にも放射線汚染が広がります。


火災が広範囲に広がり、地上のあらゆるものを焼き尽くす可能性もあるとのこと。


そして、爆発の直後に巨大なキノコ雲が立ち上ります。


爆発から数時間で、都市や森林を燃やす火災によって生じた熱風と煙が、周囲の新鮮な空気を引き込みながら火災積乱雲として上昇します。


ススやエアロゾルを含む火災積乱雲は地表から高度約11kmの対流圏を超え、その上の成層圏と呼ばれる層にまで到達します。


通常、大規模な火災で生じるススやエアロゾルは雨によって洗い流されます。ところが、火災積乱雲によってほとんど雲ができない成層圏まで到達すると、大気中からススを除去できなくなり数年間にわたり成層圏にとどまる可能性があるそうです。


これが単一の都市で起こった場合の影響は局地的ですが、「一方の国が他方の国を核攻撃した場合、残存核戦力による報復が行われる」という相互確証破壊の概念に基づいた交戦が起きれば、数百~数千もの核兵器が一度に使用されることも考えられます。その結果、世界各地で大量の火災積乱雲が発生し、1億5000万トンものススが成層圏に送り込まれる可能性があるとのこと。


核戦争が起きて数日~数週間でススは高高度で地球を覆い始め、太陽光を吸収して光が地表に届くのを妨げます。


これにより、わずか数週間で急激に地表に当たる太陽光が減少し、「核の冬」と呼ばれる極端な気候の変化が起きます。


核の冬がどれほどの規模になるのかは不明ですが、少なくとも永続的なものではなく、その影響は長くても10年ほどだとみられています。


しかし、たった数週間以内に大規模な気候変動が引き起こされれば、その影響は甚大なものになります。冬はずっと長くなり、夏は短くなるかまったく存在しなくなります。これによって海面から蒸発する水分量が減り、それに伴い降水量も減ることで、地上では大規模な干ばつが起きる可能性があるとのこと。


十分な太陽光と気温、そして雨がなければ作物がうまく育たなくなり、食糧生産に壊滅的な影響が及びます。


人類の大部分は赤道からも極地からも程よく離れた中緯度帯に住んでおり、ここにはアメリカの大平原やウクライナといった農業生産性の高い地域も含まれます。しかし、核の冬によって中緯度帯の気温が大幅に下がってしまうと、小麦や米といった世界的に食べられている穀物の生産量が大幅に減ってしまいます。


食糧生産体制が崩壊してしまうと、食糧の価格が大幅に上がったり、国外への輸出が禁止されたりする可能性が高まります。


その結果、核戦争を生き残った人々を養うだけのカロリーを生産できなくなり、大勢が飢餓に見舞われることとなります。


人間が備蓄している作物と食糧は数週間分しかないため、年単位の生産量の減少に耐えきることは不可能です。


核戦争が食糧生産に影響を及ぼす影響は気候変動だけではありません。現代の農業は工業的に生産されたさまざまな農薬や肥料、農機具に頼っているため、核戦争によってこれらのサプライチェーンが破壊されることも農業生産性に打撃を与えます。


記事作成時点で科学者が「核の冬」について検討する際に想定する交戦国は、「インドとパキスタン」あるいは「アメリカとロシア」の2つです。このうち「インドとパキスタン」で核戦争が起きた場合、比較的低出力の核兵器100個ほどを用いた交戦が予想されますが、それでも核爆発そのもので約2700万人が死亡するとみられます。つまり、第一次世界大戦を上回る死者がわずか数時間で発生するのです。


その後の「核の冬」はそれほど強烈なものではなく、「核の秋」と言えそうなレベルにとどまりますが、それでも世界的に気候の混乱による農業生産性の低下が予想されます。


試算によると、世界全体で2億5000万人が飢餓に陥る可能性があるとのこと。


また、インドとパキスタンも軍拡競争を行っているため、戦争で用いられる核兵器が数百個に達する可能性もあります。


もし250個ほどの核兵器が使われた場合、主要な人口密集地の爆撃によって1億人以上が死亡し、核の冬によって世界全体で生産できるカロリーは約半分になるとのこと。


その結果、餓死する人は20億人に上ると試算されています。


最悪のシナリオはNATO諸国とロシア、アメリカ、中国などが絡んだ全面的な核戦争です。


4400個の核兵器が使用される最悪のシナリオでは、爆発によって3億6000万人が即座に死亡し、カロリー生産量は90%も減少するとのこと。


ほぼすべての農業は壊滅的な打撃を受け、復興するのは非常に困難です。2年以内に飢餓による死者数が約50億人に達する可能性もあるとみられています。


ロシア・中国・カナダ・アメリカ・ヨーロッパの大部分は人口の数%しか生き残ることができず、文明が元通りになることはありません。一方、核兵器保有国の大半は北半球にあるため、南半球にあるオーストラリア・ニュージーランド・アルゼンチンなどは核戦争の影響が比較的少なく、「核の冬」も穏やかなものになる可能性があります。


そうなればこれらの国々は食糧の輸出をストップし、自国民を生かし続けることに注力するとみられています。


「核の冬」が終わる際に何人が生き残っているのかは不明ですが、最悪のケースでは人類の文明が数千年も巻き戻される可能性もあるとのこと。


Kurzgesagtは、「彼らは文明を再建した後、再び核兵器を製造するのでしょうか?」という問いを投げかけて締めくくりました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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