核戦争後の世界はなぜマッドマックスっぽくならないのか?
by _Gavroche_
映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」では、核戦争が引き起こされた後、世界的な干ばつによって現代社会が破壊され、地球全体がサハラ砂漠のようになってしまったなかで生存者が物資と資源を奪いあう様子が描かれていました。映画の中では無味乾燥な砂漠の中を主人公のマックスとイモータン・ジョーがカーチェイスする様子が多く描かれていましたが、では実際に、「核戦争が起こった後の地球はマッドマックスの世界のようになってしまうのか?」ということが科学的に説明されています。
Why a Post-Nuclear World Would Look Nothing Like “Mad Max” - Facts So Romantic - Nautilus
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NASAの科学者であるJay Famiglietti氏は、「核による大虐殺というあら筋を抜きにすれば、マッドマックスの世界はかなり現実的」と考えている1人。人間による水の消費によって、世界で最も大きな帯水層の3分の1が減少しており、しかも減少スピードは雨によって帯水層に水が溜まる速度よりも速いものとなっています。この帯水層への依存は地球上の人口が増加するにつれて強くなっており、地球温暖化の影響と合わせて、ますます干ばつを引き起こし、川を小さくし、地下水の量を減らしているとのこと。そして、帯水層をいつまで維持できるのかは科学者たちにも不明。10年後になくなってしまう可能性もあれば、2万年も持つかもしれないそうです。そして、帯水層が枯れてしまった時、水をめぐった大虐殺が世界の終末をもたらさないとも言い切れません。
by Natty Dread
しかし、話の中に「核弾頭」が登場すれば、筋書きはまた違うものになります。マッドマックス 怒りのデス・ロードはナミビア共和国の砂漠で撮影されましたが、気候学の専門家であるラトガース大学のAlan Robock氏は映画に登場する砂漠が「核戦争後の世界とは全く違う」と指摘します。Robock氏は2014年の研究で、「もしインドとパキスタンが広島や長崎に落とされたのと同じサイズの核爆弾を50個爆発させたら」という予測を発表しています。この予測によると、爆発によって生まれた500万トンのすすは成層圏にまで届き、最終的に地球全体に広まるとのこと。すると、すすの中に含まれるカーボンブラックが広まり世界中の空が真っ黒になります。カーボンブラックは二酸化炭素の100万倍のエナジーを吸収するため、成層圏の温度は上がり、一方で日光が遮られることによって地球上には「核の冬」と呼ばれる氷河期が到来します。
Robock氏らの研究チームが地球の気候モデルを用いて調査したところ、核戦争後の地球の気温は過去1000年で経験したことのないほどに低くなることが判明しています。この状態の地球ではそれぞれの季節が短縮され、一方でオゾン層が薄くなるために遠紫外線照射が強くなって、多くの食物が枯れると見られています。この流れからRobock氏は、世界的な凶作が発生すると予測。中国では米の生産量が現在の20%にまで減少し、中国国内では3億人の人々が、世界規模では約20億人もの人々が餓死する可能性があると見られています。
by Hartwig HKD
2016年現在、アメリカ・ロシア・イギリス・中国といった国々が核を保有していますが、これらの国々が持つ核が戦争に使われた後に、地球にどのくらいの残骸が残るかを正しく測るのはほぼ不可能です。ただ、Robock氏の予測では1億5000万トンの煙が地球を包み混み、1万8000年前に起こった氷河時代と同等の気候を生み出すだろうと見ています。
しかし、マッドマックスでは「黒い空」ではなく「青い空」が描かれています。Robock氏によると、いったん真っ黒に染まった空が青空を取り戻すには少なくとも30年は必要とのこと。では、マッドマックスの世界は核戦争から数十年後の世界なのか?というと、そこにも疑問が残ります。なぜなら、地球温暖化の原因の1つは地球上の二酸化酸素レベルの上昇にありますが、戦争によって人口が激減すれば二酸化酸素の発生量が少なくなり、地球温暖化はストップするためです。核戦争による「黒い空」は戦後数十年のうちに消えていくので、数十年後には少なくとも現在と同じような、しかし地球温暖化は確認されない世界が生まれているはず。そしてこのとき、地球温暖化を原因とした干ばつは収まっているはずなのです。
よって、いったん地球の大気の状況が回復すれば、二酸化炭素レベルと水の循環には問題がない世界が生まれるので、何十億人もの人々が水の供給が少なくて苦しむという、マッドマックスのような世界にはならないわけです。
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