サイエンス

NASAの火星ヘリコプター「インジェニュイティ」は一体何がすごかったのか?


火星において人類初の「地球外惑星での動力飛行」を成し遂げ、予定をはるかに上回る72回もの飛行に成功し、ローターブレードの損傷で惜しまれながら引退したNASAの火星ヘリコプターが「インジェニュイティ」です。宇宙工学史において絶大な功績を残した同機ですが、「ヘリコプター」と聞くと「ヘリコプターは20世紀にできた技術だし……」と考えてあまり大したことがないという印象を与えてしまうこともあります。そんなインジェニュイティがいかに革新的だったのかについて、サイエンス系メディアのArs Technicaが解説しました。

It turns out NASA’s Mars helicopter was much more revolutionary than we knew | Ars Technica
https://arstechnica.com/space/2024/01/now-that-weve-flown-on-mars-what-comes-next-in-aerial-planetary-exploration/

Ars Technicaいわく、まず第一に、最も明白に革新的だとわかるのは「他の惑星でも動力飛行が可能であることを実証したこと」だといいます。探査車を使った動力走行は1990年代に成し遂げられていましたが、ヘリコプターのように飛行する機体が地球とはまったく違う環境で果たして動作するのかは、2021年に行われたインジェニュイティの初飛行まで、机上の空論に過ぎませんでした。

NASAの火星ヘリコプターが飛行に成功、人類史上初の快挙 - GIGAZINE

by NASA/JPL-Caltech

もうひとつ、おそらくより重要な点は、インジェニュイティが市販の部品を使っているということにあります。

火星の空気はとても薄いため、地球で言えば標高約24kmの高さで飛行するのと同じ条件だそうです。そのためインジェニュイティは機体を支えるブレードに何よりもこだわる必要がありました。そこで採用されたのが市販の部品です。

NASAの開発チームはインジェニュイティを極限まで軽くし、ブレードやバッテリー、コンピューター、センサー、カメラ、脚部、ソーラーパネルなどすべてを含めた全体の質量をわずか2kg未満に抑えていました。

by NASA/JPL-Caltech

Ars Technicaいわく、既存の宇宙船を操作するコンピューター(RAD750)の重さは1ポンド(約450g)でしたが、インジェニュイティを飛ばすにはこの質量を削る必要があったとのこと。そのため開発チームが採用したのがQualcommのチップ「Snapdragon 801」でした。これは、2015年頃のスマートフォンに採用されていたチップです。

RAD750は1990年代の技術に基づいて設計されており、価格は約25万ドル(約3700万円)にもなります。対照的にSnapdragon 801はスマートフォンにも搭載できるほど安価なもの。これを採用したことにより「これまで深宇宙に送り込んできたものをすべて合わせたものより100倍強力なコンピューター」が生まれたとArs Technicaは表現しています。

by NASA/JPL-Caltech

チップの他にもバッテリーやセンサー、カメラなどがほとんど市販と同様のものが採用されていて、宇宙飛行を想定して調達されたものではなかったそうです。それにもかかわらず、ローターブレードが物理的に損傷するまで、これらのコンポーネントはすべて無事動作しました。

開発チームのリーダーであるテディ・ツァネトス氏は「これはエンジニアの大勝利です」と語りました。Ars Technicaは「この経験を経て宇宙仕様のハードウェアでなくとも宇宙で動作するという新たな知見を得たと言え、より安く、より軽く、あらゆる面でより高性能になる可能性があります。ミッションプランナーにとってほとんど想像を絶する解放感でしょう」と紹介しました。


NASAはすでに新たな機体を製造する計画を進めていて、記事作成時点では2028年までに土星最大の衛星「タイタン」へ探査機を送り込む「ドラゴンフライ・ミッション」が進行中。これは、火星の何倍も離れた軌道にあるタイタンの砂の上を自動車サイズの原子力ドローンで飛行するという大胆なミッションであり、地球と似た大気を持ち液体の水が存在することも確認されているタイタンにおいて、原始生命体が誕生している可能性や、生命誕生の仕組みを理解するための一助となる証拠を得ることが期待されています。このドラゴンフライにも、インジェニュイティのデータが役に立っているとのことです。

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Ars Technicaは「インジェニュイティの成功は、火星やその他の場所へのミッションプランナーが空中ビークルを使用することを考えるきっかけとなるでしょう。100年以上前、ライト兄弟が飛行士になろうとする人たちの想像力を広げたように、インジェニュイティ開発チームはインジェニュイティが新たな可能性の扉を開いてくれることを願っています」と締めくくりました。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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