賃貸暮らしの人は持ち家の人よりも生物学的老化が速く悪影響は失業や肥満より大きいという研究結果
持ち家を購入するには多額のコストがかかるため、近年は生涯にわたり賃貸住宅で暮らすという選択をする人も増えています。ところが、オーストラリアとイギリスの研究チームが行った調査では、「民間の賃貸住宅に住む人は持ち家の人よりも生物学的な老化が速く進行する」ということが明らかになりました。
Are housing circumstances associated with faster epigenetic ageing? | Journal of Epidemiology & Community Health
https://jech.bmj.com/content/78/1/40
Living in privately rented homes linked to faster biological ageing, study finds | Housing | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2023/oct/10/living-in-privately-rented-homes-linked-to-faster-biological-ageing-study-finds?CMP=Share_AndroidApp_Other
Insecure renting ages you faster than owning a home, unemployment or obesity. Better housing policy can change this
https://theconversation.com/insecure-renting-ages-you-faster-than-owning-a-home-unemployment-or-obesity-better-housing-policy-can-change-this-216364
実年齢は誰でも1年で1歳増えていきますが、さまざまなデータを基に算出される生物学的な老化は、個人の生活習慣や環境によって異なります。これまでの研究では、うつ病や歩く速度、休日と平日の睡眠パターンなどが生物学的老化の進行スピードに関わっていることが判明しています。
オーストラリアのアデレード大学とイギリスのエセックス大学の研究チームは、イギリス家計縦断調査で収集された世帯主1420人のデータを基に、生物学的老化のスピードと住環境の関係について分析しました。生物学的老化のマーカーには、人間の老化を促進する基本的なメカニズムと見なされており、遺伝子の発現方法に影響するDNAの化学的変化であるDNAメチル化が用いられました。
収入や生活習慣などを制御した上で住環境と生物学的老化の関連を分析した結果、民間の賃貸住宅に住んでいる人は持ち家を所有する人と比べ、1年当たり2.4週間も余分に老化が進んでいることが判明しました。民間の賃貸住宅に住むことは、失業(1年当たり1.4週間の老化)や肥満(1年当たり1週間の老化)、元喫煙者であること(1年当たり1.1週間の老化)よりも生物学的老化への影響が大きかったとのことです。
今回の調査が行われたイギリスやオーストラリアでは、賃貸契約が1年程度と比較的短く、一部の州や地域では賃借人の過失がなくても立ち退きを迫ることが可能だそうで、民間の賃貸住宅に住む人々は不安定性が大きいとのこと。研究チームは、この住居に関する不安定性が生物学的老化に関連している可能性があると指摘しています。
実際、より住居の保有権が安定している公営住宅を借りている人々では、家を借りていることによる生物学的老化への悪影響はみられませんでした。この点も、生物学的老化に関連しているのは家を借りていること自体ではなく、民間の賃貸住宅にある不安定さであることを示唆するものです。
イギリスの大手日刊紙・The Guardianは、「一般に、民間賃貸住宅に住む人は他の住宅所有者よりも、寒さ・湿気・劣化といった問題が大きい劣悪な環境で生活しています。イギリス住宅調査によると、2021年には民間賃貸住宅の23%が『妥当な家屋基準(Decent Homes Standard)』を満たしておらず、この割合は持ち家だと13%、公営賃貸住宅では10%です」と述べています。
民間の賃貸住宅に住むことが生物学的老化の加速に関連しているという研究結果は、コストなどの問題から持ち家を購入できず、生涯にわたり賃貸住宅に住む人々が増えている国にとって重要な意味を持ちます。
一般に、健康に関する公の議論やメッセージは、喫煙や肥満といった個人の生活習慣に焦点を当てています。しかし、公営住宅の増加や賃借人の権利向上は、政府による政策変更がより直接的な違いを生み出せる領域です。
研究チームは、「無過失の賃借人に立ち退きを要求できないようにする」「家賃の値上げを抑制する」「民間賃貸の住環境を改善する」といった政策により、賃貸住宅が生物学的老化に及ぼす影響を軽減できる可能性があると主張しました。
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