収入や学歴が低い人は若年性認知症を発症するリスクが3倍も高い
認知症は記憶力や認知能力が低下して日常生活に支障を来す障害であり、65歳未満でありながら認知症の症状が現れるケースは若年性認知症と呼ばれています。世帯収入や学歴などで判断した人々の社会経済的地位と認知症の発症リスクを分析した研究では、社会経済的地位の低い人は若年性認知症を発症するリスクが3倍も高いことがわかりました。
Associations of socioeconomic status and healthy lifestyle with incident early-onset and late-onset dementia: a prospective cohort study - The Lancet Healthy Longevity
https://www.thelancet.com/journals/lanhl/article/PIIS2666-7568(23)00211-8/fulltext
Lower socioeconomic status ‘triples risk of early-onset dementia’ | Alzheimer's | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2023/nov/29/lower-socioeconomic-status-triples-risk-of-early-onset-dementia
雇用や収入といった社会経済的地位が低い人は、単に日々の生活に余裕がないだけでなく、健康や精神状態に悪影響があることもわかっています。中国の華中科技大学の研究チームは、若年性認知症のリスクと社会経済的地位が関連しているのではないかと考えて、イギリスの大規模バイオバンクであるUKバイオバンクのデータを分析しました。
65歳未満で発症する若年性認知症は世界中で約390万人が患っていると推定されており、毎年37万人が新たに若年性認知症と診断されているとのこと。しかし、ほとんどの研究は高齢者が発症する遅発性認知症に焦点を当てており、若年性認知症のリスクプロファイルの評価は不十分だとのこと。
研究チームは、2007年~2010年にUKバイオバンクに参加した約50万人から、社会経済的地位のデータがない人や調査開始時に認知症と診断された人を除いた約44万人分のデータを調べました。調査では被験者が認知症を発症したかどうかを追跡調査したほか、世帯収入や雇用形態、学歴といった項目に基づいて社会経済的地位が測定されました。また、喫煙状況やアルコールの摂取量、身体活動、食生活といったライフスタイルについても調査が行われたそうです。
分析の結果、社会経済的地位の低さや不健康なライフスタイル、男性であること、社会的孤立を経験していること、疾患があることなどが若年性および遅発性認知症の発症率の上昇に関連していることが判明。特に社会経済的地位が低い人は高い人と比較して、若年性認知症を発症するリスクが3倍も高いことがわかりました。
社会経済的地位が低くて若年性認知症を発症した人のうち、生活習慣による影響は12%未満だったそうで、社会経済的地位の低い人が健康的なライフスタイルを持っていても、必ずしも若年性認知症の発症リスクが相殺されるとは限りませんでした。
また、社会経済的地位が低くて不健康なライフスタイルを持っている人は、社会経済的地位が高くて健康的なライフスタイルを持っている人と比較して、若年性認知症の発症リスクが440%も高いことが示されています。
今回の研究では、社会経済的地位の低さと認知症の発症リスクとの関連性は、遅発性認知症よりも若年性認知症の方が高いことが示されました。研究チームは、「従って、健康に関するその他の社会的決定要因を考慮することなく、健康的なライフスタイルの促進だけに頼っていては、若年性認知症や遅発性認知症における社会経済的不平等を実質的に減らすことはできないかもしれません」と指摘しています。
この研究には関与していない公衆衛生研究者のトマソ・フィリッピーニ氏は、前提として健康的なライフスタイルを促進することの重要性を認めつつ、「この調査結果は、認知症の発症率を減少させるには社会的格差を減らす努力が強く求められることを示唆しています」とコメントしました。
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