次世代コーデック「AV1」を動画プラットフォームで採用する上で重視したいポイントとは?
GoogleやNetflixなどが開発に携わった「AV1」は、4K画質でも高い圧縮率でエンコードできるストリーミング向けの次世代コーデックです。このAV1を採用するために重視すべき点を、動画エンコーディングツールやプレイヤーを開発するBitmovinがまとめています。
Bitmovin's Guide to Adopting AV1 Encoding
https://bitmovin.com/av1/av1-encoding-guide/
カメラで撮影されたRAW動画はデータ量が膨大になるため、ファイルサイズも非常に大きくなります。動画データを保存したり送信したりするためには、RAW動画のデータ量を圧縮するように変換する必要があります。動画のデータ変換を「エンコード」と呼び、エンコードを行うためのソフトウェアが「コーデック」です。
コーデックの種類によって、エンコード後の動画の圧縮率や画質は異なります。記事作成時点では、H.264/AVCやH.265/HEVCが主流ですが、前者は2003年に仕様が策定されたために古く、後者はライセンスが複雑であることから使いづらいという問題が存在します。
そこで、Google・Apple・Mozilla・Microsoft・Netflix・IBM・Meta・Adobe・Arm・Intel・NVIDIAなどの名だたる企業が「Alliance for Open Media」という非営利団体を結成し、オープンかつロイヤリティフリーなストリーミング向けコーデック「AV1」を開発しました。
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AV1はH.264/AVCよりもデータ圧縮率が高く、さらにH.265/HEVCやVP9と同等の画質を実現できるコーデックとして開発されました。しかし、2018年に正式リリースされたAV1はハードウェアサポートが2022年~2023年頃からようやく進み出しており、記事作成時点ではかなりゆっくりと普及しているという状態です。
BitmovinはAV1のメリットについて、「低いビットレートでも優れた画質を実現する」「バッファリングが軽減されてユーザーエクスペリエンスが向上する」「4Kおよび8K解像度を処理でき、機能もより高度である」「長期的にみればコストを削減できる」と列挙しています。
その上で、BitmovinはAV1を採用する上で重視するべきポイントを以下の5点にまとめています。
◆1:AV1がビジネス目標と視聴体験にどのように役立つかを判断する
新しいコーデックを自分のプラットフォームに導入する場合、どういう意図と目標を定めているかを考えることが重要です。
「モバイル機器や帯域幅が限られた場所で品質を向上したい」「ストレージやCDN配信コストを減らしたい」「より多くの視聴者に4K映像やHDR映像を配信したい」「QoE(Quality of Experience)を改善してプラットフォーム全体のバッファリングを軽減する」といった場合は、AV1が適しているとのこと。
◆2:プロジェクトの総所有コスト(TCO)、節約および収益の可能性を考える
AV1はエンコードに必要な演算能力とエンコード時間でコストがかかるという点がデメリットになります。ただし、H.264/AVCに比べると帯域幅が大幅に節約され、送信やCDN配信のコストが軽減されます。そのため、配信コストの減少分がエンコードでかかるコスト増加分を上回るところが損益分岐点になります。
以下のグラフはH.264/AVCとAV1を同時運用した場合のコストとH.264/AVCのみを運用した場合のコストを示したグラフ。累計動画再生数(横軸)が5000回手前で、H.264/AVCのみのコストが上回っています。
Bitmovinは、AV1のコスト計算を行うツールを以下のサイトで公開しています。
AV1 break-even point calculator » Demo | Bitmovin
https://bitmovin.com/demos/av1-break-even-calculator
Bitmovinは「AV1は収益を生み出し、加入者を維持するのにも役立ちます。また、HDおよび4Kコンテンツのビットレート要件が低いので、高品質のアップセル層に対応できる市場全体を拡大できます。さらに、再バッファリング率を下げ、視聴者に全体的に優れたエクスペリエンスを提供し、加入者の離脱を減らすことにも役立ちます」と述べています。
◆3:クラウドベースのエンコーディングと分析を利用して迅速かつリスクのない評価を実現
AV1によるエンコードを行うためには、エンコーダーの有償アップグレードやハードウェアのアップグレードが必要になることもあります。そのため、クラウドを使ったエンコーディングもありといえます。
◆4:コンテンツを意識したタイトルごとのエンコーディングで概念実証を加速
AV1は前世代のコーデックよりも設定が複雑で、AV1に対応したエンジニアが求められます。コンテンツに対応したエンコーディングサービスを利用し、高度な知識や設定を必要とせずに動画コンテンツを適切なビットレートにエンコードできるようなシステムを組むことが重要です。それにより、プロセスが簡素化されるだけでなく、ストレージコストが節約され、配信側および再生側でデータを効率的に利用可能となります。
◆5:最も人気のあるコンテンツを導入して早期のROIを実現する
ROI(Return On Investment)とは投資した額に対して、どれだけの利益を上げられたかを示す指標です。YouTubeやNetflixなど、AV1に初期から対応していた企業は、AV1エンコード環境に早くから投資しており、人気コンテンツをAV1のみでエンコードしていたことで、ROIが高い結果となっています。
なお、Netflixの調査によると、2022年初頭の1カ月間にストリーミングされたコンテンツの21%がAV1やH.265/HEVCによる圧縮効率の恩恵を受けたとのこと。2023年10月時点で、Netflixのコンテンツの30%以上がAV1でエンコードされており、新規追加されているコンテンツすべてでAV1エンコードが有効化されているそうです。
Bitmovinは「どのコーデックが最もメリットをもたらすかは各サービスプロバイダーの目標やビジネスモデル、対象デバイスによって異なりますが、最高のストリーミング体験を提供するためにはH.264/AVCだけでなく、それ以上の進歩が必要であることは明らかです。AV1のような新しいコーデックを追加することで、品質が向上するだけでなく、人気が高まるにつれて高くなる経済的負担を軽減することができます。今コーデックのアップグレードに投資することは、今後何年にもわたって利益をもたらすでしょう」とコメントしました。
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