Samsungの元幹部が半導体工場を丸ごとコピーするために機密情報を盗み出して逮捕される

中国に半導体工場を建設するために工場の設計図などの機密情報を盗み出したとして、韓国の二大半導体メーカーであるSamsungとSK Hynixで幹部を務めた65歳のチェという男が、産業技術保護法と不正競争防止法違反の疑いで韓国の検察当局によって逮捕・起訴されました。

Ex-Samsung exec indicted for stealing trade secrets to build copycat plant in China | Yonhap News Agency
https://en.yna.co.kr/view/AEN20230612005100315

Ex-Samsung Exec Accused of Building Copycat Chip Plant in China - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-06-12/ex-samsung-exec-accused-of-building-copycat-chip-plant-in-china

Ex-Samsung executive alleged to have stolen tech to recreate chip plant in China | Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2023/06/ex-samsung-executive-alleged-to-have-stolen-tech-to-recreate-chip-plant-in-china/

How a Chip Guru Left South Korea and Wound Up Accused of Leaking Tech to China - WSJ
https://www.wsj.com/articles/how-a-chip-guru-left-south-korea-and-wound-up-accused-of-leaking-tech-to-china-9cf145b1

韓国の検察当局によると、チェ被告人は2018年から2019年にかけて、チップ工場の基本光学データやプロセスのレイアウト、半導体や工場の設計図面などの機密データを違法に入手。さらに、中国西部・陝西省西安市にあるSamsungのメモリチップ工場からわずか1.5km離れたところに、そのSamsungの工場をまるごとコピーしたような半導体工場を建設しようとしていました。

チェ被告人はSamsungに19年勤務したのち、Hynix Semiconductor(ハイニックス半導体、のちのSK Hynix)に勤め、当時経営難だった同社の立て直しを助けました。2009年にはチップ生産のコスト削減の功績により、政府から産業功労勲章を授与されています。最終的にはCTO(最高技術責任者)にまでなりましたが、2010年に退社しています。

その後、チェ被告人は中国とシンガポールに複数の半導体企業を設立し、中国と台湾の投資家から資金を調達していました。

韓国メディアの聯合ニュースによれば、台湾の投資企業が被告人の設立した企業に約62億ドル(約8600億円)を投資する契約を交わしていたそうですが、契約は破られ、男は工場の設立に失敗したとのこと。一部では、この台湾企業が鴻海精密工業だと指摘する声もありますが、鴻海はこの件についてコメントしていません。

なお、チェ被告人は中国の投資家からも4600億ウォン(約500億円)の投資を受けており、この投資とSamsungから違法に入手した情報を元手に、四川省成都市に工場を設立。すでに試作品の生産に成功していたそうです。

by Jeff Keyzer

ニュースサイトのThe Elecは2020年10月に「Hynixの元幹部がGlobalFoundariesの工場を買おうとしている」と報じています。

Ex-Hynix execs in China to buy GlobalFoundaries factory  - THE ELEC, Korea Electronics Industry Media
https://thelec.net/news/articleView.html?idxno=1660

この工場は2018年に設立されましたが、アメリカと中国の経済摩擦の影響を受け、当初予定していた300mmウェハーの生産をすることなく、2020年5月に操業を停止しています。

また、チェ被告人は四川省に会社を設立し、SamsungとSK Hynixからおよそ200人の従業員を引き抜いていたとのこと。被告人は引き抜いた従業員に企業秘密を入手するように指示していたそうで、Samsungは推定2億3000万ドル(約320億円)の損害を受けたと報じられています。なお、Samsungの下請け会社の従業員1人と、男が設立した企業の従業員5人の計6人も、男と共謀した容疑で在宅起訴されました。

当局は「今回の事件は単なる半導体技術の流出ではなく、半導体工場を丸ごと全部コピーしようと企てるものです。被害の範囲は、これまでの技術漏えい事件とは比べものになりません」と述べています。経済紙のBloombergは「この事件は半導体製造の野望を抱く中国と、それを抑えようとするアメリカ・韓国・台湾との緊張関係に火をつける可能性もあります」とコメントしました。