サイエンス

人間を殺すこともある危険な毒グモが出す毒はシチュエーションによって成分が変わるという研究結果


オーストラリアに生息する毒グモのグループであるジョウゴグモ科(Australian funnel-web spider)は、霊長類にとって致命的な毒を持っていることが知られており、かまれた人間が死亡する事例も報告される危険な毒グモです。そんなジョウゴグモ科の毒グモがさまざまなシチュエーションで分泌した毒を分析した研究で、一部の毒グモは「自分が置かれている状況」によって毒の成分が変わることが判明しました。

Interactions between physiology and behaviour provide insights into the ecological role of venom in Australian funnel-web spiders: Interspecies comparison | PLOS ONE
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0285866


Funnel-web spider venom varies - JCU Australia
https://www.jcu.edu.au/news/releases/2023/may/funnel-web-spider-venom-varies

The World's Deadliest Spider Can Tweak Its Venom Depending on Its Mood : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-worlds-deadliest-spider-can-tweak-its-venom-depending-its-mood

漏斗のような形をした巣を作ることが特徴のジョウゴグモ科は、強酸性のロブストキシンという致死性の毒を盛っており、ドクイトグモクロドクシボグモなどと並んで世界最強の毒グモとも呼ばれています。

特に有名なシドニージョウゴグモは、1980年代までに少なくとも10件以上の死亡例が報告されているとのこと。ジョウゴグモ科の毒はなぜか天敵であるトカゲや鳥には効かず、人間やサルなどの霊長類に対して有毒であり、子どもに対して特に致死性が高いことがわかっています。

by sree314

ジョウゴグモ科の毒は人間にとって致命的である一方で、天然の殺虫剤心臓病の治療薬などにも応用できる可能性があるとわかっています。そのため、ジョウゴグモ科のクモがどのように毒を産生するのかを理解することは、より効率的な化学物質の抽出や使用に役立つ可能性があるそうです。

オーストラリア・ジェームズクック大学の生物学者であるリンダ・ヘルナンデス・デュラン氏は、「ジョウゴグモ科は自然界で最も複雑な毒を盛っており、その毒分子が隠れた治療薬や天然の殺虫剤になる可能性があると評価されています。毒の製造方法を知ることは、この可能性を引き出すための一歩となります」と述べています。

そこでデュラン氏らの研究チームは、ジョウゴグモ科の代表的な種であるシドニージョウゴグモ(Atrax robustus)・Hadronyche validaHadronyche infensaSouthern tree-dwellingの4種を対象に、さまざまなシチュエーションで分泌した毒を分析する研究を行いました。

by David Wilson

研究チームはクモに空気を吹きかけたり、ピンセットで突いたり、同種の別のクモと対面させたりして、クモが遭遇するさまざまなシチュエーションを模倣しました。その間、クモの行動特性を評価すると共に、レーザーによる心拍数測定で代謝率を推測し、毒を採取して質量分析計で成分を調査したとのこと。

実験の結果、3つの種では行動や心拍数が毒の組成に及ぼす影響は特定されませんでしたが、Hadronyche validaでは行動や心拍数の変化が毒の組成にも変化を及ぼすことが確認されました。デュラン氏は、「Border Ranges funnel-web(Hadronyche valida)では、いくつかの毒成分の発現が心拍数や防御行動と関連していました。他の種ではこのような現象は見られず、関連性が種に特異的である可能性が示唆されました」と述べています。


また、今回の研究では攻撃を受けた際の防御行動や毒の分泌には代謝コストがかかることも示されました。そのため、毒グモは身を守るために毒を分泌する際、代謝コストを補うために行動を減らす可能性があることが示唆されたとのことです。

デュラン氏は、「私たちは、特定の毒成分が行動や生理的変数とどのように関連しているのかを初めて示し、これらの関係が文脈依存的であることを実証しました。これにより、毒の生態学的役割のさらなる探求と理解のための貴重な知見を得ることができました」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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