サイエンス

パーキンソン病の早期診断につながるブレイクスルーをマイケル・J・フォックスの財団が支援する研究チームが発表


映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主人公マーティ・マクフライを演じた俳優のマイケル・J・フォックス氏は、29歳の時に手の震えや歩行の困難といった運動障害を示すパーキンソン病と診断されました。そんなフォックス氏がパーキンソン病研究の支援のために立ち上げたマイケル・J・フォックス パーキンソン病リサーチ財団が支援する研究チームが、パーキンソン病の早期診断につながる重要なブレイクスルーを発表しました。

Assessment of heterogeneity among participants in the Parkinson's Progression Markers Initiative cohort using α-synuclein seed amplification: a cross-sectional study - The Lancet Neurology
https://doi.org/10.1016/S1474-4422(23)00109-6


The Lancet Neurology: Identifying ‘hallmark’ | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/985529

Michael J. Fox Foundation Announces Significant Breakthrough in Search for Parkinson's Biomarker | Parkinson's Disease
https://www.michaeljfox.org/publication/michael-j-fox-foundation-announces-significant-breakthrough-search-parkinsons-biomarker

パーキンソン病は脳内のドーパミン分泌細胞の変性が主な原因だとみられる進行性の神経変性疾患であり、いくつかの原因遺伝子が特定されているものの、多くの症例は遺伝子に関係なく発症するとのこと。数十年かけて徐々に病状が進行していく病ですが、早期に治療を開始することでこれまで通りの生活を送ることができる期間を延ばすことが可能であるため、パーキンソン病の早期診断は多くの潜在的な患者を救います。

そんなパーキンソン病の病理学的特徴として特定されているのが、脳内におけるα-シヌクレインというタンパク質の異常な蓄積です。以前の研究でも、患者から採取したサンプル中のα-シヌクレインを増幅して測定する「α-synuclein seed amplification assay (αSyn-SAA/α-シヌクレインシード増幅分析)」という手法で、パーキンソン病の患者を特定することが示されていましたが、大規模な被験者を含む詳細な研究は行われていませんでした。

そこで、マイケル・J・フォックス パーキンソン病リサーチ財団が資金援助を行っているParkinson's Progression Markers Initiative(PPMI:パーキンソン病進行マーカーズ・イニシアチブ)の研究チームは、合計1123人の被験者を対象にした大規模な研究を行いました。

被験者にはすでにパーキンソン病であると診断されている人やパーキンソン病ではない健康な人の他、パーキンソン病に関連する2つの遺伝子変異(GBAまたはLRRK2)のいずれかを持つ人が含まれていました。また、パーキンソン病の初期兆候である睡眠障害や嗅覚障害を持っているものの、手の震えなどの運動障害はみられずパーキンソン病だとは診断されていない人などもいたとのこと。


研究チームは脳と脊髄を包む脳脊髄液を被験者から採取し、α-シヌクレインシード増幅分析を実施しました。その結果、α-シヌクレインシード増幅分析は88%という高い感度と96%の特異度で、パーキンソン病の人とそうでない人を区別できることがわかりました。

また、パーキンソン病の発症率を高める遺伝的要因がなかった患者では93%でα-シヌクレインシード増幅分析が陽性でしたが、GBAを持つ人の陽性率は96%、LRRK2では68%と遺伝子変異の種類によって変動がみられたとのこと。一方、LRRK2を保有しているもののパーキンソン病の兆候がみられない被験者では陽性率が9%、LRRK2では7%にとどまりました。


他にも、パーキンソン病と診断されていないものの初期兆候がみられた被験者もほとんどが陽性で、特に嗅覚の喪失を報告した初期兆候を持つ被験者では89%、レム睡眠行動障害を持つ被験者では85%が陽性を示したそうです。嗅覚の喪失はα-シヌクレインシード増幅分析で陽性を示す最も可能性の高い予測因子であり、嗅覚が失われたパーキンソン病患者は97%が陽性を示したのに対し、嗅覚を喪失していないパーキンソン病患者の陽性率は63%でした。

論文の共著者であるノースウェスタン大学のTanya Simuni博士は、「嗅覚の低下はパーキンソン病の強い予測因子であると考えられていますが、本研究ではα-シヌクレインシード増幅分析が陽性であっても嗅覚が低下していない人を特定した点に注目することが重要です。これは、α-シヌクレインの病変が嗅覚の低下が測定可能になる前から存在する可能性があることを示しています」と述べました。


論文の筆頭著者であるペンシルベニア大学医学部のAndrew Siderowf教授は、「パーキンソン病の病態を示す効果的なバイオマーカーを特定することは、パーキンソン病の治療法に大きな影響を与える可能性があります。早期診断や、患者ごとの最適な治療法の特定、臨床試験の迅速化が可能になるかもしれません」とコメントてています。

共同筆頭著者であり医療企業・Amprionの開発ディレクターを務めるLuis Concha氏は、「私たちの結果は、誤って折り畳まれたα-シヌクレインが脳のドーパミン作動性障害が観察される前に検出されることを示しています」と述べました。Amprionはα-シヌクレインシード増幅分析のツールを商品化しており、医師はパーキンソン病の診断に用いることができます。

マイケル・J・フォックス氏は、「私はさまざまな方法で財団の活動に関わっていますが、何よりもまず、パーキンソン病患者としてこの結果を受け止めたいと思います。この画期的な成果に深く感動し、ここまで努力してきた研究者、研究参加者、資金提供者に限りなく感謝しています」とコメントを寄せました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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