「AIが人間と同レベルの知性を獲得する日は来るのか?」という質問に5人の専門家が回答
対話型AIの「ChatGPT」や画像生成AI「Stable Diffusion」などの急速な発展により、「これらのジェネレーティブAIは世界のGDPを7%増加させ3億人の雇用に影響を与える」というレポートがあったり、Micorosoftの創業者であるビル・ゲイツ氏が「18カ月以内にAIが子どもたちに読み書きを教育するようになる」と予測していたりと、AIが世界に与える影響に関するさまざまな予測が挙がっています。非営利のニュースメディアであるThe Conversationは、5人のAIやテクノロジーに関する専門家に「AIは人間レベルの知性に達する日が来るか?」という疑問をぶつけ、その回答をまとめています。
Will AI ever reach human-level intelligence? We asked five experts
https://theconversation.com/will-ai-ever-reach-human-level-intelligence-we-asked-five-experts-202515
OpenAIが開発したGPT-4やChatGPTの成功をきっかけに、他の多数の企業やAI開発団体の研究や開発も加速し、AI分野は急成長しています。そのあまりに急速な発展ぶりに、「AIは社会と人類への深刻なリスクがある」として、OpenAIの創設者の一人であるイーロン・マスク氏やAppleの共同創設者であるスティーブ・ウォズニアック氏などが、「GPT-4を超えるAIの少なくとも6カ月間にわたる即時開発停止」を求める公開書簡に署名しています。
「コントロールの喪失」の恐れがあるとしてGPT-4を超えるAIの即時開発停止を全技術者に対して6カ月間求める公開書簡、イーロン・マスクやスティーブ・ウォズニアックなど1300人以上が署名 - GIGAZINE
AIの発展により、サイバーセキュリティ分野の専門家の40%以上が「2030年までにAIが自分の仕事を奪うだろう」と回答していたり、ゴールドマン・サックスの調査ではAIの発展は世界の国内総生産(GDP)を7%押し上げる一方で、主要な経済圏で3億人規模のフルタイム労働者の仕事が自動化の影響を受ける「労働市場の大きな混乱」が起きると調査報告を発表しています。そういった「仕事がAIに奪われる」という懸念が語られる一方で、AIが活躍している分野は現状ではプログラミングやライティング、一部のイラストや写真の生成、チェスや囲碁などを含む戦術ゲームのプレイなどに限られています。
AIの研究に置いて主要かつ最終的な目標として、「AIが、人間が実現可能なあらゆる知的作業を、理解・学習・実行することができる」という「汎用人工知能(Artificial general intelligence、AGI)」と呼ばれるアイデアがあります。AGIはまだ実現していませんが、The Conversationはオーストラリアにある大学の専門家・研究者5人に、「AIが人間の知能に完全に到達する、すなわちAGIが生まれると考えていますか?」とインタビューを行ったところ、5人全員が「イエス」と回答しました。
以下は、各専門家の詳細なコメントです。
・ポール・フォルモサ(AI倫理、哲学)
マッコーリー大学の哲学教授であるフォルモサ氏は、「十分な時間が経過すれば、AIはAGIに成長する、つまり『人間レベルの知能』を獲得する可能性が高いと思われます」と述べています。AIは意識がないため、自分が何をしているか理解しておらず、それは「知的」とは言えないという考えもありますが、フォルモサ氏は「知能は機械的に理解でき、知的な存在は学習や推論、ライティングや道具の使用など、知的なことを行うことはできます。近年のAIの台頭により、意識がなくても知能を持つことができると示唆されました」と語っています。
・クリスティーナ・マハー(計算神経科学、医用生体工学)
シドニー大学で脳をコンピュータに見たててその機能を調べる計算神経科学と、工学の知識を医学に応用する医用生体工学を研究するマハー氏は、AIは人間レベルの知能を実現すると考える一方で、すぐには無理だと結論付けています。人間レベルの知性が行う推論、問題解決、意志決定の能力は、適応性や社会性、経験から学ぶ認知能力などが必要で、AIはこれらの要素を備えはじめています。そのため、「AIが批判的な推論や、感情の機微など、人間本来の特性を理解できるようになれば、AIはAGIに到達します」とマハー氏は指摘した上で、「AGIに必要なのは『人間が生来身に付けている感情』を学習することです。このため、AIが人間レベルの知能を獲得するかどうかではなく、いつ、どのように獲得できるかが大きな問題なのです」と述べています。
・ダナ・レザザデガン(AI、データサイエンス)
スウィンバーン工科大学でAIおよびデータサイエンスの講師を務めるレザザデガン氏は、AIは多くの点で人間の知能に匹敵すると述べた上で、どの程度賢くなるかは量子コンピュータの進歩が大きく左右するとしています。人間の創造性や感情的な知性、直感といった感覚は、今のデータセットや限られた計算能力では分析することができません。しかし、量子コンピュータがAIを強化したとき、人間と世界との相互作用についての膨大なデータをAIモデルに与えることができ、それを高速かつ正確な分析で理解していくことができます。レザザデガン氏は「安定した量子コンピュータ上で動作するAIアルゴリズムは、一般的な人間の知能に近いものに到達する可能性が高いです」と結論付けています。
・マルセル・シャルト(機械学習とAIアラインメント)
シドニー大学で機械学習と、AIを人間にとって望ましい方向に制御する「AIアラインメント」の講義を行うシャルト氏は、「AGIが実現する可能性は高いと思いますが、その時期は不確定要素が強いと考えています」と回答しました。シャルト氏によると、AIが人間の知性に並ぶ、あるいは人間の脳の計算能力を超えるため私たちに課される課題は、「知能」というものを理解し、AGIを特徴付ける領域を構築していくための知識を得ることです。AIについて予測を行う有名なプラットフォームの1つであるMetaculusでは、AGIに到達する予測期間の中央値を2032年としていますが、シャルト氏はAGIへの道には現在では予測不可能なブレイクスルーとイノベーションが必要になるためその予測は楽観的とし、「2059年までにAGIが実現する可能性が50%ある」と考える2022年の専門家調査の方がもっともらしいと支持しています。
・セイダリ・ミジャリリ(AI、群知能研究)
トレンズ大学でAIおよび自己組織化されたシステムの集合的ふるまいについてのAI分野である群知能を専門とするミジャリリ氏は、「かつて、誰もが人間にしかできないと信じていたゲームプレイや画像認識、コンテンツ作成などのタスクは、技術の進歩により機械が実行可能であると証明されました。AIアルゴリズムは急速に進歩しており、同じ軌道をたどれば、以前は想像もできなかったレベルの知能と自動化をAIは発揮します」とAIの発展が持つ無限の可能性を示した上で、「より一般化されたAIが誕生することは、可能性ではなく、未来の確実なことです」と語っています。ミジャリリ氏もマハー氏と同様に、直観や共感に基づく作業がAIの苦手とする分野と認めつつも、アルゴリズムのブレイクスルーにより達成は可能であるとしています。また、AIが認知能力を獲得しはじめると、AIは自らAIを改善する様になる「知能の自動化」が発生するため、そこから世界が大きく変わるとミジャリリ氏は指摘しています。
ミジャリリ氏は回答の最後で、「AGIの開発は技術的にも大きな課題ですが、AGIに向けて大きく前進するためには、倫理的、社会的に非常に注意深く対処しなければなりません」と述べています。
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