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10代の少女がピタゴラスの定理の新しい証明を示す、「最も美しい証明」と評価


アメリカ数学会で2人の10代の少女がピタゴラスの定理について新しい証明方法をプレゼンテーションしたことが話題になっています。応用数学の専門家であるキース・マクナルティ氏は「性別、民族、社会人口学的背景に関係なく、喜びと情熱があれば誰でも、研究分野での卓越性は達成可能であることを示す素晴らしい出来事」と評しているほか、その証明方法自体が波紋を呼んでいます。

Here’s How Two New Orleans Teenagers Found a New Proof of the Pythagorean Theorem | by Keith McNulty | Apr, 2023 | Medium
https://keith-mcnulty.medium.com/heres-how-two-new-orleans-teenagers-found-a-new-proof-of-the-pythagorean-theorem-b4f6e7e9ea2d

American Mathematical Society(アメリカ数学会、AMS)に対してルイジアナ州ニューオリンズ出身の10代の少女であるカルシア・ジョンソン氏とネキヤ・ジャクソン氏の2人がプレゼンを行い、ピタゴラスの定理の新しい証明を示しました。2人は学生であり、アフリカ系アメリカ人の女性という特徴は数学会の大多数を占める人口とは正反対となっていたことから、マクナルティ氏は「選択した研究分野での卓越性は、誰でも常に達成可能であるということを鼓舞する素晴らしい出来事です」と述べています。

またマクナルティ氏によると、このプレゼンが大きな話題を生んだのには大きな理由があり、証明方法自体が高名な数学者たちをもうならせるものであったとのこと。

そもそもピタゴラスの定理とは、「直角三角形の3辺の長さのうち2辺が分かっていれば残りの1辺の長さを計算できる」というもので、「a2+b2=c2」という数式で表されます。日本では「三平方の定理」として中学で学習する数式ですが、数式の証明には数百通りもの異なるパターンが示されています。


このピタゴラスの定理の証明を、「三角法」を用いて行ったことが数学会に大きな衝撃を与えたとマクナルティ氏は指摘しています。三角法とは、三角形の角の大きさと辺の長さの関係を基礎として、他の証明や測量などの研究へ応用する学問分野ですが、その三角法自体がピタゴラスの定理に依存しているため、三角法でピタゴラスの定理を証明することは「前提のなかに結論を入れる」といういわゆる循環論法に当たるため、「ピタゴラスの定理を三角法により証明することは不可能」とされていました。

しかしマクナルティ氏によると、「ピタゴラスの定理は三角法で証明できない」という観点はここ数十年で疑問視されるケースが多くあり、証明が何度も試みられてきたそうです。そのためジョンソン氏とジャクソン氏の証明が「最初の三角法によるピタゴラスの定理の証明」というわけではありませんが、マクナルティ氏は彼女らの証明を「これまでに見た中で最も美しく、最も単純な三角法の証明である可能性があります」として高く評価しています。合わせて、これは若くて鋭い知性が成しえた仕事であり、多くの経験豊富な数学者の特徴を明確にする興味深い事象だとマクナルティ氏は述べています。

三角法を用いたピタゴラスの定理の新しい証明について、マクナルティ氏は以下の画像のような図で示しています。図では、「a≠b」と仮定した辺a、b、cを持つ直角三角形について、辺bとcの間の角度をα、辺aとcの間の角度をβとしています。この直角三角形についてまず「1,辺bを軸に水平方向に反転したコピーを形成」し、「2,辺cに垂直な直線Aを角βから延長」した後、「3,直線Aと辺cを結ぶ直線Cを引く」という3ステップを行います。すると大きな直角三角形が形成され、その中に元の直角三角形と相似である直角三角形を、左上から次第に小さくなる形で無限に描くことができます。この「無限の相似三角形のシーケンス」を使用して直線AとCの長さを導き出すのが、ジョンソン氏とジャクソン氏の証明となります。


図で示されているように、3番目の三角形の1辺は2aで表現され、「sinα=cosβ=a/c」「cosα=sinβ=b/c」という三角比を用いると、その斜辺は「2a/sinβ=2ac/b」と表せます。このように、無限に続く相似三角形の場合、隣合った三角形の辺から三角比を使って表現することができます。この時、相似三角形全体の辺Aの長さは初項「(2ac)/b」・公比「a2/b2」の等比級数の和となり、以下のように示すことができます。


また、直線Cも同様に初項「(2a2c)/b2」と公比「a2/b2」を持つ等比級数であり、以下のように示されます。


ここで示されたAとCの比を計算すると以下のようになり、三角関数では「sinθ=θの対辺/斜辺」で示されるため、元の図から「直線A/C=sin(2α)」であると分かります。


さらに、元の図の一番最初に直角三角形を水平方向にコピーしたことで、2つの直角三角形を合わせた一つの三角形は二等辺三角形になっています。ここで、証明に三平方の定理を使わない正弦定理を用いて、直線AとCの比に関する式を変換したら、最終的に以下のような式になります。a、b、cがいずれもゼロではないため、分子が同じ場合には、分母は同じになるはず。したがって、「a2+b2=c2」が示されます。


Hacker Newsでもこの証明について話題になっており、「この証明は三角形の辺の比率としてサインやコサインが存在すると仮定しているのみで、三角法を使用する、というフレーズは誤解を招く表現です」と指摘する意見がある一方で、「従来はサインの法則を証明に使用できないという信念があり、そのためピタゴラスの定理を三角法、ないしサインやコサインを用いて証明するのは不可能だと考えられてきました。これが打破されたため、創造的で予想外の証明だと言われたと考えられます」とジョンソン氏とジャクソン氏の証明の何が画期的だったかを説明するコメントもありました。

また、数学会にはあまり例がない南部出身のアフリカ系アメリカ人の少女2人による証明ということが驚きを呼んだことについて、社会的背景によって学問が阻害されるべきではないといった意見を含む議論が交わされるほか、「彼女らの証明は素晴らしい業績であるのは間違いないが、マクナルティ氏の記事では、彼女たちが有名な私立高校に通っているということに触れていません。この業績について『学問に届きにくいエリアからの達成』というようなストーリーを語るには問題があると思います」とする意見も寄せられています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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