AIを禁止するのではなく「どのように使いどのように評価するか」を学生教育に取り入れる試み
Stable DiffusionやMidjourneyのような画像生成AI、ChatGPTやGoogle Bardのような対話型AIが登場し、これまで人間にしか創作できなかったとされる絵や文章をAIが人間並みの精度で生成できるようになりました。もちろんその正確性と信頼性には疑問の声も上がっており、「学生の17%が試験や課題にChatGPTを使っている」という報告もあり、教育現場でのAI利用を禁止するべきという意見も唱えられています。そんな中、大学や高校で「自動生成AIをどのように使い評価するのか」を学生に指導する試みが行われています。
My class required AI. Here's what I've learned so far.
https://oneusefulthing.substack.com/p/my-class-required-ai-heres-what-ive
At This School, Computer Science Class Now Includes Critiquing Chatbots - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/02/06/technology/chatgpt-schools-teachers-ai-ethics.html
ペンシルバニア大学ウォートン校のイーサン・モリック教授は学部と大学院修士課程での授業で、AIの使用を学生に課しました。ある授業では、アイデアの創出や文章の作成、アプリの作成、画像の生成などにAIを使うように指示したとのこと。また、別の課題では課題のクリアにAIの使用を義務付けたり許可したりしました。さらに別の授業では、AIを紹介してその使い方を考えるように指示したとのこと。
モリック教授によれば、これまで他の講師や教授からは「ChatGPT自体はかなり自然な文章が書けるのに、AIを使った作文課題はひどいものが多い」と評価されていたとのこと。実際に学生にAIを使わせてみたところ、最初はAIを使いこなせていないケースがほとんどだったそうです。
例えば、モリック教授は、「与えられたテーマについて5パラグラフの小論文を作成する」という課題を学生に出しました。学生はAIの使用を課せられており、作文をAIにそのままやらせたり、あるいは小論文にふさわしいイラストを作成させたりしました。しかし、実際にその小論文を読んでみるとほとんどが平凡で、成績はせいぜいCマイナスどまりだったとのこと。
by Mike MacKenzie
モリック教授は課題を出すときに、ChatGPTに入力する命令文(プロンプト)を複数入力するように指示していたそうです。そこで、学生が入力したプロンプトをチェックすると、おおまかに「1:すべてをAIに任せる」「2:AIが書く内容をユーザーが決定し、自分が知っている知識の範囲も示す」「3:AIが書いた内容をチェックした後に文章を校正して細かく書き直させる」という3つのアプローチに分かれていることがわかりました。
1つ目のアプローチで書かれた小論文はどうしても平凡な内容になるとのこと。2番目のアプローチは1番目のアプローチで書かれた小論文よりも内容は優れていましたが、結果にばらつきが多かったとのこと。そして、内容が最も優れていたのは3番目のアプローチで出力されたものだったそうです。
学生に小論文を提出させた後、モリック教授は改めて3番目のアプローチを基にAIへ指示する方法を教えたところ、最終的に小論文の完成度が劇的に改善されたとのこと。
多くの教育者が「AIは信頼性が低い」という点に懸念を抱いていますが、モリック教授は授業を通じて、学生はAIの信頼性の低さをすぐに理解しており、AIが書いた内容について注意深くファクトチェックを行っていたそうです。ただし、ファクトチェック自体の精度が低いため、ChatGPTにだまされる可能性をもっと考慮するべきだろうとしています。
また、ニューヨークの公立高校では、コンピューターサイエンスの教師が「クリティカルコンピューティング」の授業を行っているとのこと。この授業では、コンピューターのプログラミングだけではなく、AIを批判的思考に基づいて理解することを目指しています。
この授業では例えば、主に白人とアジア人の男性で構成されたIT企業のチームによって開発された顔認識AIが、黒人やラテン系の顔を認識するのが難しい場合があることについて話し合います。また、AIに見られるバイアスを解決するためにはどうしたらいいかを議論しているとのこと。
さらに、この授業の講師はChatGPTを使って30分間の授業プランを作成し、その通りに授業を進めました。実際に講師が作成する授業プランと比較して、生徒はChatGPTによる授業の有用性や問題点を議論します。
モリック教授は「もし私がAIを受け入れなかったとしても、AIが学生の周囲のいたるところに存在していることは明らかです。学生たちは私が使い方を教える前から、クラスの課題をこなす助けとしてAIを用いていました」とコメントし、トレーニングなしでは誰もがAIを誤って使ってしまうため、AIを使うことの是非ではなく、AIをどのように使うかに焦点を当てることで学習効果が向上することが期待できるとしています。
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