サイエンス

「AIチューター」を使った個別指導により大学生の学習効率が向上&やる気も増加した


大学などで難しい講義を受講している時、「いつでもわからない箇所の質問に的確な答えをくれるチューターがいたらいいのに」と思ったことがある人もいるかもしれません。ハーバード大学の研究者らが実際の講義に「AIチューター」を導入したところ、学生の学習効率が向上してやる気も増加したことが判明しました。

AI tutoring outperforms in-class active learning: an RCT introducing a novel research-based design in an authentic educational setting | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-025-97652-6


Professor tailored AI tutor to physics course. Engagement doubled. — Harvard Gazette
https://news.harvard.edu/gazette/story/2024/09/professor-tailored-ai-tutor-to-physics-course-engagement-doubled/

人間のように会話できる上に大規模なデータセットから得た知識を蓄えた生成AIは、教育を大幅に進歩させる可能性を秘めていますが、それが従来の教育と比べてどれほど効果的なのかはよくわかっていません。


そこでハーバード大学の物理学講師であるグレゴリー・ケスティン氏と物理学上級講師のケリー・ミラー氏は、実際にハーバード大学で生命科学を専攻する学生らを対象にした「Physical Sciences 2(物理科学2)」の講義で「AIチューター」の効果を調べる実験を行いました。

実験は2023年の秋に行われ、研究参加に同意した194人の学生を2つのグループに分け、それぞれ2週間連続で講義を受けてもらいました。最初の1週間では、一方のグループが通常の教室で講師によるアクティブ・ラーニングを受け、もう一方のグループはケスティン氏らが開発した「AIチューター」による講義を自宅で受けました。次の1週間ではそれぞれの条件を入れ替えて、再び講義を受けてもらったとのことです。

以下の画像が、今回の研究で用いられたAIチューターの画面です。AIチューターのフレームワークはOpenAIが提供するGPT API上に構築されており、AIチューターの性格やフィードバックの質などは事前に審査されています。AIチューターにはコンテキストが豊富で洗練されたプロンプトが与えられ、これに沿って学生からの質問に答えました。また、研究チームは自らの専門知識を活用してAIチューターが各講義で従うべき指示を作成し、熟練した講師のように振る舞うようにしたそうです。


研究チームは学生らの習熟度を測定するため、事前テストと事後テストを用いてそれぞれの講義の学習成果を比較しました。また、学生らにそれぞれの講義にどの程度意欲的に取り組んだのか、どれほど楽しかったのか、どれほどモチベーションが高かったのかといった点についても質問しました。

分析の結果、AIチューターによる講義を受けた学生は人間による講義を受けた学生と比較して、より高い学習成果を得られたことが判明しました。また、AIチューターを利用した学生は、教室で講義を受けた学生よりも短い時間で学習を終えたことも報告されています。

以下のグラフは、一番左が講義を受ける前の理解度を測定したテストのスコアで、真ん中が人間の講義を受けた後の理解度スコア、一番右がAIチューターの講義を受けた後の理解度スコアを表したもの。ベースラインの平均スコアである「2.75」と比較すると、人間の講義を受けた場合の平均スコアは「3.5」、AIチューターの講義を受けた場合の平均スコアは「4.5」となっており、AIチューターの講義は2倍以上も学習成果が高いという結果になりました。


また、以下のグラフはAIチューターの講義を受けた学生がタスクに取り組んだ時間を示したもので、点線が教室での講義時間から事前・事後テストの時間を除いた時間(60分)です。AIチューターを利用した学生の多くは、教室での講義時間未満で学習を終えたことがわかります。AIチューターの講義を受けた学生のうち、60分未満で学習を終えた割合は約70%で、中央値は49分でした。


さらに、AIチューターの講義を受けた学生らは講義への意欲やモチベーションなどでも、人間の講義を受けた学生よりも高いスコアを示しました。ケスティン氏は、「学生たちがAIを活用した講義をより魅力的に感じるとは、まったく予想していませんでした」と語っています。

ミラー氏は、すでに講義内容について十分な知識を持つ生徒にとって講義は退屈である一方、知識のない生徒には追いつくことが難しいと指摘し、AIチューターはこういった学生ごとの違いを補う上で役立つだろうと主張しました。

研究チームは今回の研究結果から、AIを活用することで基礎的な知識を授業時間外に学ばせることができれば、貴重な授業時間を「高度な問題解決能力・プロジェクト型学習・グループワーク」といった高度なスキルの教育に充てられると考えています。

ケスティン氏は、「AIは学習を飛躍的に向上させる可能性を秘めていますが、注意を怠ると学習を阻害してしまう可能性もあります。AIチューターは学生に代わって『考える』のではなく、批判的思考(クリティカル・シンキング)の育成を支援するべきです。AIチューターは対面授業に取って代わるものではなく、全ての学生がより良い準備ができるよう支援するものであるべきです」と述べました。

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in ソフトウェア,   ネットサービス,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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