サイエンス

「脳にデバイスを埋め込んで耳鳴りを治す」というイーロン・マスク氏の計画は実現可能なのか?

by Web Summit

イーロン・マスク氏は2022年4月のツイートで、「脳に埋め込むデバイスで5年以内に耳鳴りが治療できる可能性がある」と述べました。長年にわたり多くの人を悩ませてきた耳鳴りを本当に治療できるのかについて、専門家が検証しています。

Elon Musk claims his Neuralink brain chip could 'cure' tinnitus in 5 years. But don't hold your breath
https://theconversation.com/elon-musk-claims-his-neuralink-brain-chip-could-cure-tinnitus-in-5years-but-dont-hold-your-breath-182156

◆マスク氏のNeuralinkとは?
マスク氏率いるブレイン・コンピューター・インタフェース(BCI)の開発企業・Neuralinkのデバイスは、直径が人間の髪の毛の4分の1しかない繊維状の電極1000本を備えたチップを頭に埋め込み、Bluetooth接続で通信して義肢などを操作するというものです。

同社は2021年に、ペイジャーと名付けられたサルにBCIデバイスで卓球ゲームをプレイさせることに成功したことを発表し、その様子を収めた動画を公開しています。

脳にチップを埋め込んだサルが「思考」だけでゲームをする映像が公開される - GIGAZINE


◆Neuralinkのデバイスは耳鳴り治療に応用可能なのか?
オーストラリア・グリフィス大学でサイバーセキュリティを教えているデビッド・タフリー氏によると、耳鳴りは「外的な要因がないのに音が聞こえる神経学的な症状」と定義されているとのこと。内耳と脳をつなぐ内耳神経が大きな音やけが、血流の不足などで損傷することで発生することが分かっていますが、治療法は確立されていません。そのため、耳鳴りの治療は音を無視する方法をトレーニングしたり、環境音を聞いて意識をそらせたりすることが中心になっているそうです。

Neuralinkのデバイスで肥満治療が可能との記事に関連し、「耳鳴り治療にも期待が持てますか?」と尋ねられたマスク氏は、「間違いなく可能です。5年以内には実現できるかもしれません。Neuralinkのデバイスは半汎用的な神経の読み書き装置で、電極数は1000本程度。1000本もあれば耳鳴りの治療ができますし、電極数は将来的には何桁も増やせる見込みです」と答えました。

Definitely. Might be less than 5 years away, as current version Neuralinks are semi-generalized neural read/write devices with ~1000 electrodes and tinnitus probably needs <<1000.

Future gen Neuralinks will increase electrode count by many orders of magnitude.

— Elon Musk (@elonmusk)


治療法も確立されていない症状を、脳にデバイスを埋め込む最先端技術でいきなり治そうというのは少し壮大すぎると思える人もいるかもしれませんが、専門家は決して突拍子もないアイデアだとは思っていません。

1960年代初頭に、聴覚障害のある人の頭に最初の人工内耳が埋め込まれて以来、神経インプラント技術は多くの進歩を経ながら人々を助けてきました。そのため、神経学者の多くはこの技術が耳鳴りの治療にも効果を発揮すると期待しています。スタンフォード大学でBCI技術の研究を指揮しているPaul Nuyujukian氏は、この技術の見通しについてコメントを求められた際に、「私たちは今、完全なパラダイムシフトを迎えようとしています。このテクノロジーは、私たちの治療技術を一変させる可能性を秘めています。脳卒中やまひ、神経変性疾患を始め、あらゆるタイプの脳疾患に有効でしょう」と述べたことがあります。


◆課題と今後の見通し
専門家は、いずれBCI技術で耳鳴りを含む脳疾患の治療が実現できるようになると楽観視していますが、その実現には課題も多く残されています。

医療技術の規制当局であるアメリカ食品医薬品局は、Neuralinkのデバイスを最もリスクが高いクラスIIIの医療機器に分類しているため、人間での臨床試験を行うには厳しい規制をクリアしなければなりません。これには、サルのペイジャーのような人間以外の動物の臨床試験データを網羅的に収集することが含まれていますが、Neuralinkの実験中に死亡したサルがいるなど、動物愛護の観点からも批判が出ているため、人体実験のハードルはさらに高いものとなります。


うつ病など意図しない悪影響についての懸念や、故障した場合の取り外しや修理といった問題、脳梗塞や感染症リスクの管理といった課題がクリアでき次第、Neuralinkは人間のボランティアを募って臨床試験に乗り出すことになりますが、実用化までにどのくらいの歳月が必要かは誰にも分かりません。

こうした点から、タフリー氏は「Neuralinkのデバイスの実現には何年もかかるかもしれないし、富裕層以外には手の届かない値段になるかもしれません。従って、短期的には安価なインプラント技術に誤った期待を持たない方が賢明でしょう」と述べて、脳に埋め込むデバイスを使った治療法の実現には時間がかかるとの見通しを示しました。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1l_ks

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