「耳鳴りを抑える方法」が偶然にも車酔い軽減デバイスの研究中に発見される
by @chairulfajar_
実際には音がしていないのに耳障りな音が聞こえる耳鳴りは、人々の集中を妨げたり、リラックス中の穏やかな気分を阻害したります。そんな耳鳴りを簡単に治療する方法を、偶然にも車酔いを軽減するデバイスの研究中に発見したかもしれないと、研究者が述べています。
(PDF) We 'may' have discovered a potential remedy for tinnitus -by accident
https://www.researchgate.net/publication/335159616_We_%27may%27_have_discovered_a_potential_remedy_for_tinnitus_-by_accident
コヴェントリー大学の研究者であるSpencer Salter氏は、自動運転車に乗車する人の車酔いを軽減するためのデバイスを研究していました。車に乗っている時に気持ち悪くなるのは、手元の静止した物体を見ている最中の視覚情報と、実際に体が動いて内耳の三半規管が刺激される感覚情報にズレがあるからだとSalter氏は指摘。このため、車酔いの時は前方の風景や地平線を見て、実際に自分が動いており、この後どのように動くのかを予測することで症状が軽減されるとのこと。
一方で、自動運転車の開発にあたっては、「進行方向と反対側のリアウインドウを向いた座席を作る」という傾向が一般化しています。特に多人数が乗車する自動運転のバンなどでは、後ろ向きの座席が作られやすいそうですが、Salter氏は過去の研究で、後ろ向きの座席に座った人は車酔いになりやすいことを証明しています。
そこでSalter氏らの研究チームは、ヘッドマウント式のデバイスを使って人々の車酔いを軽減する研究を行っています。実際に「頭部に装着して振動を与えて車酔いを軽減するデバイス」は企業によっても開発が進められており、薬物を使わなくて済むために軍関係者からも注目を集める研究だそうです。
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Salter氏らが開発するヘッドマウント式の車酔い軽減デバイスは、耳のすぐ後ろで軽く振動して内耳に働きかけます。ラボでの実験ではこのデバイスが車酔いを軽減することが確かめられたため、研究チームは24人の非常に車酔いしやすい参加者にデバイスを装着してもらい、ミニバンにのせて街中を走らせる実験を行いました。
デバイスの振動の強弱は全部で4段階あり、ラボでの研究で「車酔いの軽減に最も効果がある」と示されたのはレベル3の振動でした。このため半数の参加者にはレベル1の振動を、残りの参加者にはレベル3の振動を設定し、参加者をミニバンの進行方向と反対側を向いた座席に座らせました。15分間のテスト中、参加者は座席に座ったままパズルを行うように指示され、車酔いになりやすい状態が再現されたとのこと。
実験の結果、レベル1の振動を与えられた参加者はスタートから6分で車酔いとなりましたが、レベル3の振動を与えられた参加者は車酔いになるまで12分かかりました。また、レベル3の振動を受けた参加者は、真っ直ぐな道路では車酔いから回復できたと報告しました。この研究結果は記事作成時点で論文になっていませんが、将来的には科学雑誌に掲載される見込みだとSalter氏は述べています。
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そしてSalter氏は偶然にも、「振動するヘッドマウント式のデバイスが、耳鳴りに苦しむ参加者の耳鳴りを抑える効果をもたらした」ことを発見したとのこと。耳鳴りは内耳の異常が原因となっているケースが多いそうで、同じく内耳が原因である車酔いになりやすい人が耳鳴りにも苦しんでいるケースは珍しくないとのこと。実際、24人の参加者の中にも耳鳴りに悩まされている女性がいました。
耳鳴りに悩んでいる参加者の女性にヘッドマウント式のデバイスを装着し、レベル3の振動を与えたところ、なんと女性は耳鳴りが改善したと報告しました。長年にわたってさまざまな医師や専門家の診察を受けても、女性の耳鳴りが改善されることはなかったそうですが、どういうわけか車酔いを軽減するためのデバイスが耳鳴りを劇的に改善したそうです。
このケースを目にして以降、Salter氏はデバイスを耳鳴りに苦しむ人々に提供し始めたそうです。デバイスを装着した全ての人々が耳鳴りの改善を報告し、中にはデバイスを家に持ち帰ったまま返却したがらない人もいるとSalter氏は述べています。デバイスは簡単に装着可能で、うるさい音もしないため、人々は1~2分で装着していること自体を忘れてしまいます。実際に、車酔いの軽減効果を実験した際には、何人かの参加者が実験終了後もデバイスを装着し続けていることに気づかなかったとのこと。
今回の発見は全くの偶然であり、記事作成時点ではSalter氏の経験的な証拠しかありません。おそらく、デバイスの振動が内耳に働きかけることが耳鳴りを軽減すると考えられていますが、今後も聴覚や耳鳴りについて専門に研究する人々が実験を続ける必要性があるとSalter氏は述べました。
by Simon James
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