音の94%を遮断できる新しい素材を3Dプリンターで開発、静音ドローンの実現や騒音公害の対策にも応用可能
ボストン大学の機械エンジニアが、音の94%を遮断できる新しい「音響メタマテリアル」を開発しました。これをドローンのプロペラや飛行機のタービン、MRI装置などに使えば、けたたましい音をほぼ完全に消し去ることができ、都市で問題となりがちな騒音公害の解決にもつながる可能性があります。
Phys. Rev. B 99, 024302 (2019) - Ultra-open acoustic metamaterial silencer based on Fano-like interference
https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.99.024302
BU Engineers Develop New Acoustic Metamaterial and Noise Cancellation Device | Research
https://www.bu.edu/research/articles/researchers-develop-acoustic-metamaterial-noise-cancellation-device/
「現在使われている防音壁は、文字通り分厚く重い壁です」と語るのは、94%の音を遮断できる音響メタマテリアルの開発に携わった研究者のひとりであるReza Ghaffarivardavagh氏。既存の防音板の一種であるサウンドバッフルは、コンサートホールの壁に配置することで音を施設の中に封じ込めることに役立ちますが、気流の流れる場所で音を抑えることには適していません。例えばジェットエンジンの排気口のように気流を遮ることができない場所では、サウンドバッフルのような防音板は効果を発揮できないため、近くで作業する整備士などはエンジンが発する轟音から耳を守るために耳栓を装着して仕事をこなさなければいけなくなります。
遮音性の高い音響メタマテリアルの開発に携わったGhaffarivardavagh氏は、イランのテヘランにあるシャリフ工科大学で機械工学の学士号を取得した後に、ボストン大学の大学院に入学してXin Zhang教授の研究室で博士号を取得しようとしている学生です。元々ボストン以外の主要都市で暮らしたこともあったそうですが、ボストンでは特に頭上を飛ぶ飛行機や路上を走る自動車による騒音がひどくうるさいことに驚いたそうです。
そこで、既存の防音板が抱える問題について熟知していたGhaffarivardavagh氏とZhang教授は、「騒音を遮断しながら通気性を保つことができる構造を設計することができないか?」と考え、数学的なアプローチと3Dプリント技術を用います。そして、空気の流れを維持しながら音だけを遮断する「数学的に完璧な仕様に合わせて作成されたリング状の構造」を開発します。「私は10年以上にわたってメタマテリアルの開発に取り組んで来ました。しかし、音響とメタマテリアルを合体させるという驚くべきアイデアをもたらしたのは、Rezaさんでした。音響メタマテリアルは比較的新しい分野で、これは未来です」とボストン大学工学部のZhang教授は語っています。
Ghaffarivardavagh氏およびZhang教授は、「音は、空気が非常に小さく振動することで生まれます。そこで、我々はその振動を鎮めることを目標としました。構造物の内部を空洞にしたい場合、この空洞が『音の伝わる経路』になることに留意しなければなりません」と語っています。2人はメタマテリアルの寸法および仕様を計算し、空気ではなく音だけが開放構造から放射されるように音響メタマテリアルを構築しました。2人によると、基本的に「メタマテリアルの中に入ってくる音をそのまま送り返すことで、音を打ち消すように遮断するところ」が開発した音響メタマテリアルの特徴だそうです。
テストとして2人はスピーカーからの音を消すことができる構造を作成。計算に基づきノイズを最も効果的に遮断する物理的な寸法をモデル化し、これを3Dプリンターを用いてプラスチックで出力します。3Dプリンターで作成した遮音性の高い音響メタマテリアルがどれくらいの遮音効果を持っているのかは、以下のムービーで見ることができます。奥に置かれているのがスピーカーで、スピーカーの前に置かれているパイプが音の経路。そしてパイプの先端につけられた円形のパーツが遮音効果のある音響メタマテリアルです。ムービーの途中でパイプから音響メタマテリアルが取り外されると、周囲にはけたたましい音が鳴り響くようになるので、音響メタマテリアルの遮音効果がいかに高いかが実感できます。
Acoustic Metamaterial Noise Cancellation Device - YouTube
分析の結果、音響マテリアルを使用することで、騒音の94%というほぼすべての音を遮断することに成功したことが判明。音響メタマテリアルでスピーカーから発せられる音を遮断することで、「スピーカーから発せられる音は人間の耳では知覚できないものとなった」とのことです。
試作品として作った音響メタマテリアルが非常に効果的であることが証明されたため、研究者たちは音響メタマテリアルを使って日常にあふれる騒音をどのように静かにするかのアイデアをめぐらしています。Zhang教授は「ドローンは非常にホットなトピックです。Amazonなどはドローンを使って商品を配達することに興味を抱いています」と語り、ファンの回転音が騒々しいドローンに音響メタマテリアルを配することで静音性の高いドローンが生まれれば大きな需要が生まれると期待しています。Ghaffarivardavagh氏も、「ドローンの騒音の原因はファンによる上向きの動きにあります。ドローンのファンの下部に開口性の遮音構造を配置できれば、ドローンから地面に向かって放たれる騒音を打ち消すことができます」と語っています。
また、家や会社にあるファンや空調システムに音響メタマテリアルを配置すれば、ファンの回転により生じる騒音を消すことができます。2人の開発した音響メタマテリアルは遮音効果を出すために気流を遮る必要がないので、家やオフィスの空気をしっかり循環させながら、静音性を高めることができるという点が従来の防音板などとは異なり優れた点です。
さらに、Ghaffarivardavagh氏とZhang教授は交通機関などによる騒音公害を減らすために音響メタマテリアルを使用することができると考えており、「我々の考案する構造は超軽量で開口性があり、美しいものとなっています。我々が設計した音響メタマテリアルは音を消すための壁を作るためのタイルやレンガとして使用することができます」とも語っています。
加えて、Ghaffarivardavagh氏によると音響メタマテリアルは形状を完全にカスタマイズ可能とのことで、構造はリング状である必要はないそうです。Ghaffarivardavagh氏は「形状は立方体や六角形に設計することもできます。壁を作りたいときは六角形など、本当にどんな形にすることもできます」と語っており、ハニカム構造で遮音壁を作ることも可能とのこと。
Zhang教授によると、音響メタマテリアルで使用したノイズ軽減方法はほぼすべての環境に合わせることが可能であるため、可能性は無限大であり、「アイデアはあらゆる音を遮断することができるオブジェクトを数学的に設計できるということです」と語っています。
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