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普段何気なく目にしている「高速道路の防音壁」の知られざる歴史とは

By AshtonPal

自動車によく乗ったり運転する人ならば一度は目にしたことがあるのが、高速道路の脇にそびえる防音壁です。自動車が発する騒音を周辺に漏らさないために建てられている防音壁ですが、その起源は一体どんなものだったのかについて、建造物などのデザインに関する記事を扱っているre:formが自動車メーカーのBMWの協力を得た記事を掲載しています。

Muting the Freeway — re:form — Medium
https://medium.com/re-form/muting-the-freeway-e18ee195bd38


高速道路を走ると、その行程のほとんどで見続けることになるのが防音壁です。道路周辺の環境を守るためには必須の建造物といえるのですが、時にはせっかくの景色を見ることができなくてガッカリさせられることもあるもの。この状況はもちろん自動車大国のアメリカのハイウェイでも同じで、特に都市部を走る路線には多くの場合に防音壁が建設されています。あまりに頻繁に目にするため、つい見落としがちになってしまう防音壁ですが、よく見れば必ず誰かの手によって設計され、作られているものであることがわかります。

一般的な設計物と異なるのは、基本的に防音壁は「目立ちすぎないように作られている」ということ。これは、運転車の集中力を妨げないためにあえて目立たなく作られているのですが、一方であまりにも単純なデザインになると、今度は逆に単調な風景をドライバーに与えて眠気を誘ってしまうなどの弊害を生じることも。このように、高速道路の防音壁というのは利用者のあずかり知らないところで見えざる工夫が凝らされているのです。

◆防音壁が生まれた歴史
防音壁の歴史は、アメリカで高速道路(フリーウェイ)が発達した、その歴史と密接に関係しています。以下の映像は、アメリカのフリーウェイに建設されている典型的な防音壁の様子。コンクリートブロックや鉄板、レンガなどの素材で作られた防音壁を、テレビや映画、そしてもちろんアメリカの現地で目にしたことがある人も多いと思います。

Sound Walls on Vimeo


アメリカでフリーウェイが誕生し、発達を始めたのは1940年のこと。「最初」のフリーウェイがどれであるかという問には諸説あるようですが、一般的にはカリフォルニア州ロサンゼルスとパサディナを結ぶ「アロヨセコ・パークウェイ」が近代的フリーウェイが初めて敷設されたものであると考えられています。カリフォルニア州のフリーウェイの歴史をまとめたサイト「California Highways」を運営するダニエル・フェイゲン氏によると、すでに1920年代にはカリフォルニアとは逆の東海岸でフリーウェイらしきものが作られており、アロヨセコ・パークウェイはその影響を受けて設計されたとはいえるものの、さまざまな特徴は現代のフリーウェイと共通するものを持っていたとのこと。

しかし、そんなアロヨセコ・パークウェイでも近代のフリーウェイと大きく異なる点があるとのこと。フェイゲン氏はその違いを「カーブがたくさんあり、現代の人が今の基準で考えると『安全ではない』と思うはずです。一度走ってみれば、きっと理解できますよ」と語っています。

その理由は、ハイウェイが作られた時代の自動車のあり方と密接にかかわっています。ロサンゼルスにあるピーターソン自動車博物館で主任学芸員を務めるレスリー・ケンドール氏によると、当時は今に比べて自動車そのものの台数が少なく、性能もそれほど高くはなかったため、道路に求められる安全性は現代よりも低いものだったとのこと。当時の人々にとってハイウェイは景色を楽しみながらのんびりとドライブするための道路であり、現代のようにいち早く目的地に行くことを目的にしたものではなかったそうです。

By Roadsidepictures

しかし、第二次世界大戦が終わり、アメリカ社会が本格的な成長を始めると、自動車に対する捉え方が一変します。自動車の性能が向上し、スピードは増加の一途をたどるようになり、求められる車両の性能を満たすためにエンジンは大きくなり、車体は低くなり、そしてタイヤの幅が広くなって行きました。

そして、自動車が出す騒音の最大の要因がタイヤから発せられるロードノイズである、とケンドール氏は語ります。技術進歩によりエンジンノイズや車体の風切り音などは減少しましたが、自動車のなかで唯一地面に接してその走行を支えるタイヤから生ずるノイズを消すことは相当に難しい仕事だとのこと。柔らかいゴムでできたタイヤの接地面が地面に接触すると、その柔らかい素材が地面の凹凸に食い込むことでタイヤのグリップが生じます。次にタイヤが回転してタイヤが地面から剥がされる時に生じる音が、タイヤから発せられるノイズの最大の原因になっているのです。


ケンドール氏によると、1930年代ごろのタイヤの幅はせいぜい5センチ程度だったのに対し、40年代にはおよそ10センチ、そして50年代には15センチという幅広いタイヤも一般的になってきたとのこと。このような幅広いタイヤの普及と、モータリゼーションによる自動車そのものの普及のおかげでハイウェイを走行する自動車が増加し、やがてその騒音が問題として捉えられることになりました。

◆防音壁の誕生
1940年台に入るとその問題は顕著なものになり、特にエンターテインメント産業が発達したカリフォルニア州では大きな問題になってきました。1920年に建設された有名な野外音楽堂のハリウッド・ボウルでは、前出のアロヨセコ・パークウェイから伸びるカフエンガ・ブルバード・パークウェイから発せられる騒音が演奏者や観客の重大な邪魔になる問題がたびたび発生しました。

この問題に取り組んだのがUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の音響心理学者であるベルン・O・クヌードセン博士です。1945年にカリフォルニア当局の協力を得て行われた研究の報告書では、「ハリウッド・ボウルの南西側に、地面から最低でも10フィート(約3メートル)の高さを持つ道路や交通から発せられる騒音を遮る『サウンドスクリーン』として機能する障壁を設けること」が助言されています。博士の研究によると、この措置により最大で6dB(デシベル)の騒音が軽減されるとのこと。これは、居間でついているテレビを消した時と同じぐらいの消音効果が得られることになります。


また、当時のカリフォルニアではハイウェイがあちこちに建設されたことで、世界に名だたるハリウッドの映画業界も大きな影響を受けることになります。従来にはなかった騒音がスタジオ内にまで届くことになり、映画制作の現場に大きな問題となって現れるようになりました。この問題に対処すべく、ハリウッドの映画プロデューサー協会やユニバーサル音楽スタジオなどの団体や企業が協力し、許容できる騒音レベルの確定に向けた取り組みを進めました。

そしてもちろん、これらの騒音によって大きな影響を受けるのは、近隣に住む住民であることは間違いありません。ハイウェイが民家の近くを通ることが多いカリフォルニア州では住民に対する騒音被害の発生も大きな問題として捉えられ、次第に騒音対策の重要性が人々の間で高まるようになってきたそうです。

その対策のために用いられたのが、やはり防音壁の導入でした。騒音制御と軽減のスペシャリストであるアーロン・ベティット氏は防音壁のメカニズムについて「非常に単純なものです。基本的な考え方は『音のエネルギーが発信源から受信者に伝わることを防ぐ』ということです。この場合、発生源は自動車で、受信者はほとんどの場合に一般市民の住宅です。2者の間に大きな質量を持つ物体を置くと、エネルギーの一部はそれによって遮られて別の方向へと導かれて行くのです」と語ります。


これらの考えをもとに、1968年にはアメリカで初となる公共の防音壁がカリフォルニア州に誕生しました。8車線を持つインターステート680号線と近隣住宅の間を遮るように建てられた防音壁は、以下のように現在でもその姿を残しています。


その後、1969年には公共開発の際に騒音を含む環境アセスメントの実施を義務づける国家環境政策法が、そして1972年には「全アメリカ国民に対して健康と福祉を脅かす騒音から解放される環境を提供すること」を目的とした1972年 騒音規制法が制定されるに至っています。以下の2つのリンクでは、防音壁の中と外で聞こえる騒音の違いを聞いて比較することができます。

防音壁の中・ハイウェイ側


防音壁の外・住宅側


このようにして1960年代に産声を上げた防音壁はその後も全米へと拡大を続け、2010年時点では2758マイル(約4400km)にもおよぶ防音壁が政府の予算によって建設されています。

◆防音壁のデザイン
このように、もはや「アメリカの風景」にも溶けこんでいるといえる防音壁ですが、そのデザインについてもさまざまな取り組みが行われています。ロサンゼルスと近郊のベンチュラ郡でのハイウェイにおける道路設計を統括するパティ・ワタナベ氏は「多くの場合はコンクリートブロックを使います」とそのデザインについて語っています。ワタナベ氏は道路脇の植物や建造物、休憩エリアなどの視覚デザインの責任者であり、その中にはもちろん防音壁の設計が含まれています。

基本的に防音壁の素材はコンクリート製のブロックで、4種類の形状を組み合わせながら建築されているとのこと。色はベージュ、茶色、タン、ライトタン、赤色、灰色などが用意されています。基本的なデザインスタイルは以下の写真のように2色のブロックを組み合わせるというもので、適度に見た目の変化を与えてドライバーを退屈させないようにしながらも、決して過度に目立ってしまってはいけないという、意外ともいえる高いレベルのデザインが求められています。

By Michael Patrick

また、あまり多くの変化を作らない理由についてワタナベ氏は「種類を減らすことでコストを圧縮できます。私たちは、公共予算のよい使い手でなければなりません」と語ります。1990年ごろにはこのようなシンプルな防音壁にもデザインを取り入れようということで、さまざまな取り組みが行われたこともあるとワタナベ氏はいいます。しかし、そのいずれの場合でも、決して必要以上に華美なものは取り入れられてこなかったとのこと。その理由はやはり「ドライバーの邪魔をしてはいけない」ということが最重要視されているためです。

自動車大国・アメリカにはなくてはならない防音壁は、人々の視界の中で邪魔をせず、しかし一方で適度な存在感を示さなければならないというハードルの高さを求められています。しかし、長年の取り組みと人々の工夫によって、防音壁はアメリカの風景に文字どおり「溶けこむ」存在となっているようです。

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in メモ,   乗り物, Posted by darkhorse_log

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