乗り物酔いやVR酔いを薬を使わずに「振動」で軽減する「OtoTech」は軍レベルでも注目を集める
車や船、飛行機に乗っている時に酔ってしまって気分が悪くなることや、近年ではVR(バーチャルリアリティー)環境を利用する際に「VR酔い」を経験したことがある人も多いはず。通常であれば酔い止めの薬を飲むことで症状を和らげることになりますが、開発が進められている装置「OtoTech」は、頭部に装着したヘッドバンドから振動を伝えるだけで酔いの症状を軽減することが可能です。薬物に頼る必要がなくなるため、大量の兵士を輸送することもある軍関係者からも注目を集めています。
This Inventor May Have Cured Motion Sickness Without Drugs. And That Could Mean a Lot to the US Military - Defense One
https://www.defenseone.com/technology/2018/11/inventor-may-have-cured-motion-sickness-without-drugs-and-could-mean-lot-us-military/152960/
OtoTechはOtolith Labs社が開発している装置。以下の写真のように、両耳の後ろに振動を発生させて骨伝導で神経に伝える「骨伝導トランスデューサー」を装着します。この装置を使って振動を加えるだけで、耳から脳につながる内耳神経に一種の「混乱」を生じさせることで、酔いが起こることを抑制する仕組みとのこと。
OtoTechから加えられた振動は、内耳神経から伸びる4本の神経のうち脳につながる2本に刺激を与えます。実は振動により酔いが抑制される原理は完全には解明されてはいないのですが、基本的な原理は「脳に与えられる体の動きに関する情報を抑制することで酔いを軽減する」というものだと考えられているとのこと。OtoTechによって神経に加えられた振動は、意味を持たない「非情報刺激」として内耳神経を刺激し、本来は内耳から伝えられる平衡覚の情報を「上書き」することで体の動きの情報を遮断して酔いの発生を抑制するというものです。
OtoTechは、発生した酔いの感覚を薬などで抑えるのではなく、酔いそのものをなくしてしまうという根本的なアプローチ。乗り物酔いに苦しむ人にとっては大きなメリットがありそうなOtoTechですが、このデバイスにはアメリカ軍も関心を寄せています。
兵士を車両や航空機、船舶などで輸送することもある軍では、兵士の「酔い対策」が大きな問題になっているとのこと。現状ではスコポラミン系の酔い止め薬が使われていますが、この薬には眠気を誘発するという副作用が存在します。この副作用を軽減するために、酔い止め薬を使用する際には中枢興奮作用を持つアンフェタミンを併せて服用するのですが、これは鎮静系の薬と興奮系の薬を同時に飲むというストレスの高い方法です。
OtoTechは、そのような副作用の影響を受けることなく、酔いを軽減できるデバイスとして注目されているというわけです。OtoTechの実用の目処はまだ明らかではない模様ですが、民間と軍の両方に大きな恩恵をもたらす可能性のあるデバイスといえそうです。
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