脳に微弱電流を与えて記憶力と注意力アップ＆痛みの除去が可能と判明

By Ars Electronica

脳に微弱な直流電流を通し脳神経に刺激を与えることで、片頭痛を緩和し、記憶力や注意力をアップさせる効果を期待できる療法「transcranial direct-current stimulation(tDCS)」の研究が進められています。

Can you supercharge your brain? | Mosaic
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1980年代以降、脳に電磁石を近づけ磁場に変化を与えることで微弱電流を発生させ脳神経細胞を興奮させる経頭蓋磁気刺激法(TMS)という手法が片頭痛やうつ病に効果を有するとして研究が盛んに進められてきました。このTMSに似た手法として、脳に2mA以下の弱い直流電流を加えることで、鎮痛剤では解消できない痛みを除去できるとしてtDCSが近年、研究開発されています。

tDCSはドイツのゲッティンゲン大学のミハエル・ニッチェ博士とウォルター・パウルス博士の研究成果によって大きく注目されることになりました。これは、tDCSが痛みを除去したりやうつ病の症状を緩和したりするという対症療法としての役割だけでなく、「健康な人の脳の機能を向上させることができる」という可能性があることが示されたためです。具体的には、tDCSの処置を受けた人は、学習するスピードが早まったり記憶力が高まったりするという効果が見られたとのこと。

By Dave Austria

このようなtDCSの効用には医学研究者だけでなく軍事関係者も注目しています。2006年、ニューメキシコ大学で統合失調症の治療のためにTMSの研究に取り組んでいたビンス・クラーク博士は、tDCSについても研究を開始し研究資金の捻出に苦慮していたところ、アメリカ国防省の国防高等研究計画局(DARPA)から、巨額の資金提供を受けることに成功したとのこと。当時、DARPAは「加速学習」と呼ばれる学習スピードを向上させるプログラムの開発をしており、クラーク博士の研究するtDCSを兵士の能力開発に活用することを期待していました。クラーク博士は、「DARPAはたとえ危険性があっても最先端の研究を促進したいという意向でした。90％の研究が失敗したとしても残りの10％が機能すればOKという方針だった」と述べ、最終的に600万ドル(約6億円)の資金提供を受けたことを研究環境として非常に恵まれていたと話しています。

また、ウェインセンズ研究所のアンディ・マッキンリー博士は、tDCSを採り入れた学習プログラムによって戦闘機パイロットの認知能力を高められればアメリカの軍事的優位性を保つための戦略的な研究になり得るとtDCSの効用を捉えています。マッキンリー博士はtDCSの研究指針として、まず第一に電流が与える脳神経への影響のメカニズムを理解すること、そして第二にtDCSを活用した実用的なアプリケーションを開発することが大切であると考えているとのこと。マッキンリー博士は、例えばマニュアル車を運転するときに訓練を重ねていくと、クラッチやシフトなどの操作方法や手順を無意識のうちに行えるほど習熟していくように、このような学習・習得までの時間を短縮するプログラムが軍事訓練に有効だと話しています。

By marwan abdul latif

マッキンリー博士はtDCSには注意力を高めるだけでなく、睡眠不足の状況下において発生する能力の低下を食い止める効果があることも発見しており、最終的にはtDCS電極を組み込んだウェアラブルデバイスによって脳の活動を常に監視しつつ、必要に応じて必要な部位に電気的な刺激を与えることで、最大のパフォーマンスが得られるよう研究を進める意向です。

これまでの研究によると、tDCSによる電流刺激によって人体に対して有害な影響や副作用は発見されていないとのこと。しかし効果的な薬や治療法には副作用がつきものであることから、tDCSによって人体に生じる悪影響については長期的な研究が必要であるとの意見もあります。