メモ

DIYで自分の脳をハッキングして脳のパフォーマンスを上げる試み


頭にセットして脳を刺激して能力を引き上げるゲーマー用ヘッドセット明晰夢を見られるように誘導してくれるヘッドバンドなど、「頭にセットして脳に作用させる」という少し恐ろしげな機器がいくつも登場していますが、世界にはDIYしたオリジナルヘッドセットを使って自分の脳のパフォーマンスを向上させようと試みる、怖いもの知らずなチャレンジャーが多く存在します。

Meet the Internet’s DIY brain hackers
http://kernelmag.dailydot.com/issue-sections/headline-story/10182/tdcs-diy-brain-hacking/


ある研究によれば、頭に電流を流すと人は瞑想(めいそう)状態に入りやすくなったり、ニューロンが刺激を受けてビデオゲームが上手くなったり、双極性障害のような情緒不安的な状態から回復したりするそうで、これはtDCS(経頭蓋直流刺激)と呼ばれています。2000年初頭以来、科学者たちはtDCSが人間の学習能力を向上させたり、うつ病の症状を低下させたり、反射神経を鋭くしたり、アルコール・甘いもの・タバコなどの欲求を抑えたりすることに使えるかもしれない、として研究を続けてきました。

tDCS用の装置は非常に簡単に組み立て可能で、いくつかのレジスタと電流調整機やバッテリーを配線して食塩水で濡らしたスポンジに電極を挿し込めば完成します。非常に簡単に組み立て可能なため、多くのコンピューターマニアやハッカーがDIYで自作のtDCSヘッドセットを作成、そして脳に電気的な刺激を与えた際の影響についてブログやYouTube、掲示板上などにアップしています。

Transcranial Direct Current Stimulation


「自分の脳に電気を流すことは明らかに危険である」だとか「安全であると確認がとれるようなプロに監修してもらう必要がある」とジャーナリストが度々警告しているにも関わらず、DIYしたtDCSヘッドセットで自分の脳に電流を流そうとする人々は後を絶ちません。これは、いかに危険性があろうとも「簡単に脳をブーストできるかもしれない」という期待感が、大きな魅力になっているのではないかとTHE KERNELは記しています。

tDCSムービーの典型的なパターンは、若い男性が自作もしくはネット上で購入したtDCSヘッドセットについて自慢し、そして頭に巻いた電極を見せびらかしながら、「スイッチを入れます!決定的瞬間です!」などとコメントしてヘッドセットのスイッチをオンにし、電流が流れた際に起きる眼内閃光について興奮気味に話す、というもの。以下のムービーもそういった典型的なムービーパターンのひとつです。

I Zapped My Brian With tDCS and LIVED! - YouTube


New York Timesの記事によると、「若者のtDCSヘッドセットを使った実験ムービーは非常に無謀で、脳に電流を流すことが危ないことであると理解しないまま実験を繰り返すのは非常に危険だ」としており、記事中では無謀な実験に挑む若者に直接インタビューを敢行したり、DIYで作ったtDCS装置を使った実験がいかに危険なものかを述べたりしています。

このようにtDCSヘッドセットユーザーの中には無謀な実験を繰り返す人もいますが、中には十分危険に配慮しながら自分の頭に電流を流している人もいます。ミシガン州に住む61歳のAlex MarkさんもtDCSヘッドセットユーザーのひとりで、彼は自身の双極性障害と慢性的な疼痛の症状を少しでも改善させるためにtDCSヘッドセットを使っている、という人物。


9ボルトのバッテリーから直接脳に電流を流すのはあまりに無謀ですが、tDCSに関して無学な若者は時々それに近い無茶な実験を行うことがあります。また、tDCSヘッドセットの電極配置位置は非常に重要で、一歩間違えると使用者に吐き気やめまいを引き起こすことになるそうです。

そういった危険性を考慮した上で、Markさんは高品質なイオン導入マシンから自身愛用のtDCSヘッドセットをDIYした、とのこと。他にもゲーム用のヘッドセットということでアメリカ食品医薬局の安全基準に関するレギュレーションをうまく回避している「foc.us」のような機器も存在するので、安全にtDCSを使った実験に取り組みたい場合はよくよく周辺知識を勉強しておく必要があります。


「X」という薬が「Y」という症状を改善するとすれば、生物学ではもっともらしい理由で「X」が「Y」に効く、ということを裏付けする必要があります。例えば、どうやって生命体が時間と共に変化してきたのかを説明するに、「進化」という言葉だけでは非常に荒っぽい説明になってしまいますが、「進化」がどうやって起きるかをしっかり説明すればこの説明は非常に素晴らしいものになります。これと同じように、「tDCS」が「脳」に有効な影響を与えることは広く知られているわけですが、これがどのように作用しているのかは正確に知り得ておらず、これが問題となっているわけです。

tDCSについての説明でよく使われる「1~2ミリアンペアの電流を流すことで、ニューロンが活性化する」という説明は不十分なものだ、と言うのはGreg Miller氏。彼は「脳の学習や記憶に関する機能を司る部位は脳内のさまざまな部位と複合的に関係しており、個体差まである」と話しているのですが、tDCSユーザーの大半が「脳の一部分に正の電極を当て、もう一箇所に負の電極を当てて電流を流す」という単調な実験を繰り返していることを指摘しています。そして、単調な電流の流し方で複雑な脳のパフォーマンスを向上させることができている、というのはプラシーボ効果によるところが大きいのでは、とコメントしています。

By Steve Jurvetson

このようにまだまだ未知な部分の多いtDCSですが、これが大きなシェアを得る可能性も十分にあるとTHE KERNELは指摘しています。双極性障害は深刻な精神病で、気分安定薬や抗精神病薬、抗うつ薬などを使って治療を行うものなのですが、双極性障害の症状や薬の副作用が強烈で、治療が非常に難しいという側面もあります。Markさんの場合は治療薬に対するアレルギーのため薬による治療が不可能だったそうで、双極性障害では薬物での治療が困難な場合が往々にしてあるわけです。

そんなMarkさんに対して精神病医が勧めたのはtDCSヘッドセットを使った治療でした。tDCSヘッドセットを使ってうつ病を治療する際は、正の電極を額の左上に取り付け、負の電極を右目の上に付けて電流を流す、というのが基本的なパターン。Markさんはこの治療法を1年以上毎日続け、その間さまざまなtDCSに関する文献を読みあさっていたそうです。そしてある日、てんかん患者を治療するために「モンタージュ」と呼ばれる電極配置パターンを使って脳に電流を流す、という研究が韓国で行われていたことを知ったMarkさんは、これと同じ方法が双極性障害の自分にも効くのではないか、と考えました。Markさんがさっそく自身の脳に「モンタージュ」と呼ばれる電極配置パターンを使って電流を流してみると、双極性障害でみられる情緒不安定な症状はすぐにみられなくなったそうです。

しかし、tDCSヘッドセットの電極を頭の正しい位置に置くことは非常に困難で、長年tDCSヘッドセットを使ってきたMarkさんは、過去に電極を置く位置が少しおかしかった影響からか、まるで「違う脳になった」かのように自身の考え方が変わってしまった経験も告白しています。なお、この症状は約6時間後に治ったそうですが、毎回同じように電流を流す前の元の自分の状態に戻れるとは限らないので、そういったリスクを知った上でtDCSヘッドセットを使った実験に取り組む必要がありそうです。

By Ian Ruotsala

tDCSヘッドセットをDIYしてYouTubeにアップロードしているユーザーのひとりであるElizabeth Aさんは、初めてtDCSヘッドセットを使った際のことを「初め私は少し眠かったけど、すぐに気分が良くなった」と語っています。他のtDCSヘッドセットユーザーの多くもElizabeth Aさんと同じような感想を報告しており、tDCSヘッドセットで脳に電流を流した際には、大抵の場合それほど強力な効果は得られないものの、何か少し気分が良くなったり認識力が向上したかのような感覚に陥るようです。

tDCS at home session flow state - YouTube

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
人間の記憶を保存できるデバイスを脳に移植して失われた記憶力を補完する研究が進行中 - GIGAZINE

脳に微弱電流を与えて記憶力と注意力アップ&痛みの除去が可能と判明 - GIGAZINE

脳への電気的刺激で意識をスイッチのようにオン・オフできることが判明 - GIGAZINE

人間の脳のある部分は60歳後半まで成長し続けている - GIGAZINE

頭にセットして脳を刺激して能力を引き上げるゲーマー用ヘッドセット「foc.us」 - GIGAZINE

in メモ,   ハードウェア,   サイエンス,   動画, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.