睡眠には脳の老廃物を除去する働きがあることが判明、脳疾患の治療に光
「人はなぜ眠るのか?」という研究は古くから科学者と哲学者を悩ませ続ける永遠のテーマですが、「睡眠によって脳の老廃物が洗い流される」ということが発見され、アルツハイマー病などの多くの脳疾患の治療が大きく進展する可能性が明らかになりました。
Sleep Drives Metabolite Clearance from the Adult Brain
https://www.science.org/doi/abs/10.1126/science.1241224
To Sleep, Perchance to Clean | URMC Newsroom
https://www.urmc.rochester.edu/news/story/to-sleep-perchance-to-clean
BBC News - Sleep 'cleans' the brain of toxins
http://www.bbc.co.uk/news/health-24567412
ロチェスター医療大学の共同センター長であるメイケン・ネダーガード博士とその研究チームは、脳の持つ脳細胞内の老廃物を洗い流し排出するという機能が、深い眠りにある間に最も活発に働くことを発見しました。この研究は、10月18日付けでサイエンス誌で発表されています。
これまでにもネダーガード博士によって、「Glymphaticシステム」という脳細胞から老廃物が排出されるメカニズムが発見されていましたが、今回の研究は、このGlymphaticシステムの応用研究として実施されました。Glymphaticシステムは、脳細胞内に脳脊髄液(CSF)が流入することで、トキシンなどのタンパク質が洗い流され排出されるというもの。
一般的に体内の老廃物を処理する仕組みとしてリンパ系システムが機能していますが、脳はそれ自体が閉じた一種の"生態系"を維持しており、脳に何を入れ脳から何を出すかを独自にコントロールする複合システム(blood-brain barrier)を備え持つため、一般的なリンパ系システムは脳にまで及ばないことが分かっていました。しかし、脳の老廃物処理プロセスは、生きた脳の観察ができなかったため、長年研究者には避けられ続けた研究テーマでした。
しかし、「2光子励起顕微鏡」と呼ばれる新しい技術の登場により、脳の血流量や大脳のCSF流量を、被写体である動物が生きた状態で観察できるようになり、脳のシステムの研究が大きく進展しました。
今回の研究では、人間の脳に似た脳を持つハツカネズミの脳血流量と大脳のCSFを観察したところ、睡眠中にGlymphaticシステムが活性化することが発見され、その量は起きているときに比べ10倍も活発であることが判明しました。また、脳細胞(神経細胞を活動的にするグリア細胞であると推測されています)は、睡眠時に60%収縮することでより多くのCSFが流入できるよう大きな空間を作り出し、脳の"洗浄"を効率的に行うことも発見されています。
アルツハイマー病やパーキンソン病のように脳細胞の欠損を引き起こす症状の多くは、脳内にダメージを受けたタンパク質が作り出され蓄積するという特徴があります。ネダーガード博士は「今回発見された脳のクリーニングメカニズムは、これらの脳疾患の解明と治療に貢献する可能性があります」と語ります。
従来、睡眠には記憶や学習内容を定着させる役割があることが分かっていましたが、睡眠時には外敵に襲われる危険が極めて高いことから考えると、睡眠のメリットよりもリスクがあまりにも高すぎるため、より大きな他の役割があるのではないかと考えられてきました。「今回発見された睡眠による脳のクリアランスシステムは、睡眠の果たす重要な役割の一つを示唆するものであり非常に興味深いものです」と睡眠に関する専門家のネイル・スタンレイ博士はコメントしています。
ネダーガード博士は、「今回の発見は、アルツハイマー病のような脳疾患の治療に大きな意味合いを持ちます。脳がいつどのようにglymphaticシステムを活発化させ、老廃物を取り除くのかを正確に理解することは、このシステムをうまく調整し効果的に機能させるための極めて大きな第一歩です」と語ります。
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