舌に電気ショックを与えると慢性的な耳鳴りが軽減されるという研究結果
「キーン」や「ブーン」といった、外部からのものではない音が聞こえてしまう「耳鳴り」は、診察しても原因がよくわからないことも多く、治療が困難な病気とされています。そんな耳鳴りを「舌への電気ショック」で軽減できるという研究結果が発表されました。
Bimodal neuromodulation combining sound and tongue stimulation reduces tinnitus symptoms in a large randomized clinical study | Science Translational Medicine
https://stm.sciencemag.org/content/12/564/eabb2830
Electric shocks to the tongue can quiet chronic ringing ears | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2020/10/electric-shocks-tongue-can-quiet-chronic-ringing-ears
研究を指揮したミネソタ大学ツインシティーズ校のヒューバート・リム准教授によると、舌への電気ショックという耳鳴りの治療法は、偶然発見されたものとのこと。当時リム氏は脳に電気的な刺激を送り込んで脳の機能不全を改善するという「脳深部刺激療法」によって聴力を回復させるという実験を行っていました。しかし、リム氏は脳に電極を差し込む際に、適切なスポットからほんのわずかに離れた位置に電極を置いてしまうというミスを犯してしまったそうです。このミスに気づかないまま装置を起動したリム氏の耳に飛び込んできたものとは、患者の「長年悩まされていた耳鳴りが止んだ!」という叫び声でした。
リム氏はこの偶然をきっかけに、「体のどの部位に電気ショックを与えたら耳鳴りが消えるのか」についての調査を開始。モルモットの耳や首、手足などに電気ショックを与えて、「舌」が最良のスポットの1つだと割り出しました。
「ある種の電気ショックを与えると同時に、音を聞かせると脳内のニューロンの誤動作が制御できるようになる」という研究結果も存在したことから、リム氏は「舌に電気ショックを与えつつ音楽を聞かせる」という実験を試みました。リム氏は耳鳴りに悩んでいるという被験者326人の舌にプラスチックで覆われた電極を置いて電流を流しつつ、さまざまな周波数で急速に変化する電子音楽のようなノイズを聞かせました。なお、与えられた電気刺激は、パチパチ発泡するキャンディーが口の中で弾ける程度のものだったそうです。
この実験を12週間にわたって継続したところ、80%を超える被験者の「耳鳴りが軽減された」と報告。耳鳴りのひどさについて0ポイントから100ポイントまでの100段階で自己評価してもらったところ、今回の実験によって耳鳴りのひどさは平均14ポイント軽減されたという結果が得られました。さらに、12カ月後に行われた追跡調査では、被験者の80%が実験以降耳鳴りは軽減されたままだと回答しました。
学術誌のサイエンスによると、電気ショックによって耳鳴りを軽減するという実験は2018年にも行われていますが、この実験では電気ショックを与える部位が「首と頬」であり、耳鳴りの軽減度合いも平均7ポイントとわずかなものだったとのこと。オックスフォード大学の神経学者ヴィクトリア・バヨ氏は、リム氏の実験に対照群が存在しなかったという問題点を指摘しつつも、「有望な研究結果」というコメントを寄せています。
・関連記事
「耳鳴りを抑える方法」が偶然にも車酔い軽減デバイスの研究中に発見される - GIGAZINE
「耳鳴り軽減」や「集中力アップ」に効果があるといわれるホワイトノイズは聞き続けると脳に悪影響が出る可能性あり - GIGAZINE
「自分の意志で耳鳴りを起こす能力」を持つ人間は一握りだけ - GIGAZINE
・関連コンテンツ