サイエンス

人間の「ミニ脳」でラットの脳損傷を修復する初の実験に成功


人間の脳のミニチュアモデルである「脳オルガノイド」を実験室で製造し、これを生きたラットの脳の損傷部分を修復するために使用するという初の実験が行われました。将来的には、この脳オルガノイドを用いて人間の脳の修復もできるようになる可能性があります。

Structural and functional integration of human forebrain organoids with the injured adult rat visual system: Cell Stem Cell
https://www.cell.com/cell-stem-cell/fulltext/S1934-5909(23)00004-8

Rat brain injuries 'plugged' with lab-grown human minibrains in world-first experiment | Live Science
https://www.livescience.com/human-organoids-repair-rat-brains

脳オルガノイドをラットの脳に移植するという実験に挑戦したのは、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部で神経外科の助教授を務めるハン・シャオ・イザーク・チェン氏らの研究チームです。実験結果は2023年2月2日に、幹細胞研究に焦点を当てた科学誌・Cell Stem Cellで発表されており、人間の幹細胞から成長させた脳オルガノイドをラットの視覚野に移植することに成功しています。


光が目の網膜に当たると、電気メッセージが「一次」視覚野に伝わり、目の前にあるものの基本的な特徴を解析し始めます。このデータは分析をさらに一歩進めるための「二次」視覚野に転送されることとなります。チェン助教授らの研究では、二次視覚野に重大な損傷を負っている成体のラットに、脳オルガノイドを移植するという実験を行っています。

過去の研究では、科学者は個々の脳細胞をさまざまな年齢の健康なげっ歯類に移植してきましたが、脳オルガノイドの移植は非常に若く、負傷を受けていないげっ歯類に限定されてきました。しかし、今回の実験では年老いて負傷したラットに脳オルガノイドを移植しているため、「この研究は脳オルガノイドを使用して脳損傷を修復するための新たな一歩を示しています」とチェン助教授は語りました。


研究チームは異なる種類の細胞を生み出すことができるヒト幹細胞の一種から、脳オルガノイドを培養しています。研究チームは80日間にわたり、研究チームは科学的合図を用いて幹細胞を誘導し、ヒトの大脳皮質にみられる多くの種類の細胞を含む三次元のかたまりを生成。これが脳オルガノイドです。大脳皮質には6つの層がありますが、80日目には実験室で培養した脳オルガノイドに大脳皮質で見られるような初歩的な層が形成されていたとのこと。

チェン助教授は「脳オルガノイドで確認できたこの構造は、脳が実際にどのように機能するかを定義する上で非常に重要です」とコメント。しかし、この脳オルガノイドは多くの点で本物の大脳皮質に似てはいるものの、「決して完全なコピーではありません」とチェン助教授は語っています。

研究チームは二次視覚野に重大な損傷を負ったラットの頭蓋骨の一部を取り除き、脳オルガノイドを脳に移植し、開いた頭蓋骨を保護キャップで密閉しました。手術中と手術後に、ラットには免疫抑制剤を投与しており、これで拒絶反応を抑えることに成功したそうです。手術から3カ月後、ラットの血管に移植した脳オルガノイドが浸潤し、脳オルガノイドとラットの脳に残っていた視覚処理システムが物理的に絡み合ったことが確認されました。研究チームは蛍光トレーサーを用いることで脳オルガノイドがラットの網膜とうまく結合していることを確認しています。実際、ラットに点滅する光などの視覚刺激を与えたところ、通常の視覚野のように移植した脳オルガノイドが活性化することも確認されています。


ただし、研究チームはより詳細な視力や行動力に関するテストは行っておらず、怪我や移植手術後にラットの視覚能力がどのように変化したかまでは調査していません。研究チームは将来的に運動を制御する運動皮質など、脳の他の部分に脳オルガノイドを移植することができるかどうかをテストし、その統合の速度と範囲を制御する要因を研究する予定です。

チェン助教授は今回発表した実験結果について、「脳を修復するための新しい戦略を開発するための最初のステップであると考えています」と記しています。また、チェン助教授は科学系メディアのLive Scienceに対して、最終的に脳オルガノイドの移植は「脳の外傷」「脳卒中後の脳機能」「パーキンソン病などの神経変性疾患」などを治療する役に立つ可能性があると語りました。ただし、脳オルガノイドの移植を人間に適用できるようになるにはまだ「何年もかかる」とみられています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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