チェスのグランドマスターであるヒカル・ナカムラがストリーミングで得たものとは?
by Andreas Kontokanis
日本で生まれ、ニューヨーク州・ホワイトプレーンズで育ったヒカル・ナカムラは10歳でアメリカ最年少のチェスマスターとなり、15歳でアメリカ最年少のグランドマスターとなりました。主にストリーミングの場で活躍するナカムラ氏がその活動で何を得たのか、記者のジェイコブ・スウィート氏が記録しています。
The Most Popular Chess Streamer on Twitch | The New Yorker
https://www.newyorker.com/culture/rabbit-holes/the-most-popular-chess-streamer-on-twitch
ナカムラ氏は動画配信プラットフォームのTwitchで140万人の視聴者を抱える、チェス界で最も人気のあるストリーマーです。普段はプレイの解説などを行っていますが、積極的に視聴者のチャットに応えるような配信スタイルで知られており、時にはチェスとは無関係なジャンルのストリーマーと一緒にチェスをして視聴者を楽しませることも。
ナカムラ氏は時に挑発的かつ攻撃的なプレイスタイルをとることでも知られており、オンライン対戦で同じグランドマスターを9回連続で打ち負かすという屈辱を与えたことがあるほか、ある大会ではすべての試合で2手目にキングを動かすという、チェス界で「最悪の1手」と称される戦法をとりつつ、トップ40にランクインしたこともあります。
国際チェス連盟(FIDE)がナカムラ氏に対し、2022年グランプリの「ワイルドカード(特別出場枠)」を与えたのも、オンライン活動の功績が大きかったとされています。本来であればFIDEが定める大会に出場していることがグランプリ参加の条件とされているのですが、ナカムラ氏は2019年以降その実績がありませんでした。しかし、FIDEのアルカディ・ドヴォルコビッチ会長はナカムラ氏の人気を認め、「ナカムラが戦うことでコミュニティが盛り上がるだろう」と発言し、ナカムラ氏の参戦を決定しています。
ただし、この決定を快く思わないプレイヤーも多くいたとスウィート氏は指摘。2年以上オンラインでしか活動実績のないプレイヤーの参戦を「ピエロショー」と非難されることもありましたが、当のナカムラ氏は「事前の練習すらまともにやらない」「もし優勝しても中国のグランドマスター、ディン・リレンに席を譲るかも」などと吹聴していました。また、「期間中も配信をやめない」と断言し、視聴者を安心させていました。
ナカムラ氏は事前の下馬評にもかかわらず次々と相手を打ち負かし、最終的に優勝を果たしています。スウィート氏は「『I don't care(気にしない)』を口癖とするナカムラ氏ですが、昔は今以上に好戦的な態度で知られており、『気にしない』という言葉通りにはいかないことも多くあったでしょう。しかし、現在は感情をうまくコントロールできているようです」と評しています。
ナカムラ氏はあるインタビューで「私は好かれる人間ではありません。みんなに嫌われていると思ってきましたが、皆さんから応援していただいて、応援してくれるファンがいることを知ることができたのは、とても意味のあることです」と述べています。
by Andreas Kontokanis
スウィート氏は「たった一つのミスが即、敗退につながることもある中で、自分の成功を願ってくれる人がいることは嬉しいことなのでしょう。また、上位の成績を残さなくてもストリーミングで生計を立てられるということがナカムラ氏の精神的な強さにつながっているのだと思います」と、ナカムラ氏の配信活動の功績を分析しています。同じくグランドマスターでストリーマーのダニエル・ナロディツキー氏は「彼のキャリアの中で初めて、支えてくれる巨大なファン層ができて、それが彼の自信になっています。ヒカルが自信を持ったら、絶対に止められないと思います」と述べました。
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