なぜインドはロシアに対して弱腰なのか?
ウクライナへの軍事侵攻を行うロシアは国際社会から強い批判や制裁を受けていますが、インドはこうした国際社会の流れから距離を置き、慎重な姿勢をとり続けています。「一体なぜ、インドはロシアに対して弱腰なのか?」という疑問について、アメリカ・インディアナ大学の政治学教授であるスミト・ガングリー氏が解説しています。
Want to know why India has been soft on Russia? Take a look at its military, diplomatic and energy ties
https://theconversation.com/want-to-know-why-india-has-been-soft-on-russia-take-a-look-at-its-military-diplomatic-and-energy-ties-181133
世界最大の民主主義国家であるインドは、当初からロシア批判に対して消極的な姿勢を見せており、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を非難する決議の採択では中国と同様に棄権したほか、人権理事会におけるロシアの資格停止の採択でも棄権に回りました。また、各国がロシア産原油の輸入停止措置を表明する中でも、インドはロシア産原油の輸入を正当化しています。
インドの外交・安全保障政策の専門家であるガングリー氏は、「インドが明確な立場を取らないのは、外交・軍事・エネルギーなど多くの点でロシアに依存していることが大きいと言えます」と指摘。インドとロシアのつながりについて、大きく3つの点に分けて解説しています。
◆インドの戦略的パートナーとしてのロシア
インドは初代首相のジャワハルラール・ネルーが提唱した非同盟主義に基づき、東西冷戦下ではいずれの陣営にも加入せず、冷戦終結後も非同盟政策を継続してきました。そんな中、インドは隣国パキスタンとのカシミール紛争に関して、国連安全保障理事会による不利な決議が採択されるのを防ぐため、常任理事国のロシア(ソ連)が持つ拒否権に頼ってきたとのこと。
ソ連およびロシアはこれまでに6回もインドを守るために拒否権を使ったとのことで、1971年に勃発したバングラデシュ独立戦争の際にも、ソ連は紛争地域からインド軍を撤退させようとする決議を拒否しました。21世紀に入っても、依然としてインドとパキスタンは散発的な衝突を繰り返しているため、ガングリー氏は今のインドにロシアと手を切る余裕はないと指摘しています。
また、インドは3500km以上の国境を接する中国との国境問題も抱えており、これについてもロシアの支援または中立性を期待しています。さらなる衝突が発生した際にロシアが中国に肩入れするのを避けたいインドとしては、国際的なロシア批判に追従することが難しいとのことです。
◆インドの兵器供給国としてのロシア
インドは外交的な面だけでなく、軍事力についてもソ連およびロシアに強く依存している国であり、インドが所有する兵器の60~70%はロシア由来だといわれています。インド政府もロシアのみに依存する体制を転換するため、近年では兵器輸入国の多様化を図っており、過去10年で200億ドル(約2兆5600億円)以上の兵器をアメリカから輸入していますが、それでもロシア脱却への道筋は遠いとのこと。
2021年11月にはロシア製地対空ミサイルシステム「S-400」の導入に踏み切り、ウクライナ侵攻後の4月にも2基目のS-400搬入が始まったと報じられました。また、欧米諸国は核保有国であるインドに対し、原子力潜水艦の兵器技術を提供する意思を示していませんが、ロシアはインドに対してアクラ型原子力潜水艦のリースを行っており、兵器輸入国としてロシアの存在は大きなものとなっています。
加えて、インドは超音速巡航ミサイルのブラモスをロシアと共同開発しており、フィリピンからのオーダーも入っています。そのため、ロシアとの関係を断つことはインドにとって相当な財政的・戦略的コストがかかる決断になるとガングリー氏は指摘しました。
◆インドのエネルギー供給国としてのロシア
インドがロシアに依存しているのは防衛部門だけではなく、エネルギー部門もロシアと密接に結びついています。民間による原子力発電を推し進める近年のインドにとって、国内における原子炉建設の協定を結んだロシアは主要なパートナーです。
インドでは「原子力発電所の建設者や部品製造者が事故の際に責任を負う」とする厳格な原子力責任法が定められており、アメリカをはじめとする欧米諸国はインドの民生原子力発電の投資に積極ではありません。しかしロシア政府は、原子力発電所の事故が起きた場合に必要な責任を負うと述べているため、インドの原子力発電部門に参入できたとのこと。
また、原子力発電以外でも、インドはロシアの油田やガス田に投資を行っています。たとえば国営企業のインド石油天然ガス公社は、サハリン島沖での化石燃料採掘に長年関わってきました。ガングリー氏はインドが原油需要の85%を輸入に頼っている点を指摘し、たとえロシアからの輸入が占める割合は少ないにしても、原油輸入を遮断するのは難しいだろうとの見解を示しました。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は4月11日にインドと行った閣僚協議の後、「インドとロシアの関係は数十年にもわたって築かれたものですが、時代は変わりました。アメリカはあらゆる領域でインドのパートナーになることを望んでいます」とコメントし、インドへの歩み寄りを見せています。しかしガングリー氏は、「外交・軍事・エネルギーの点を考慮すると、インドがロシアに対するバランスの取れた立場をすぐに崩すのは難しいでしょう」と述べました。
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