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ロシアがこのまま戦争を続けると原油の供給は一体今後どうなるのかを図解


ウクライナ情勢が悪化する中、アメリカとヨーロッパのロシア産原油の輸入禁止措置などを受け、原油価格の乱高下が生じています。このままロシアのウクライナ侵攻が続いた場合に原油の供給は一体どのようになると予想されるのか、エネルギー系ブログのDevil's Advocateが多数の図表を用いて解説しています。

There are not enough BTUs - by Viscosity Redux
https://viscosityredux.substack.com/p/there-are-not-enough-btus

Devil's Advocateはロシア-ウクライナ間の紛争が今後も継続するという点を前提とした場合、「原油が不足する」と予測しています。その論拠として引用されている、多種多様なグラフが以下。

まずロシアが産出している原油は、約1100万バレル/日という量。これはアメリカ・サウジアラビアに次ぐ、世界第3位の産出量です。

By JODI

この産出している原油のうち、自国で消費している分は約600万バレル/日。輸出している分は約500万バレル/日です。

By Bloomberg、EIA、JODI、IEA

輸出分の内訳を見ると、OECD加盟国に対する輸出量が48%を、アジア・オセアニアに対する輸出量が42%を占めています。アジア・オセアニア分の42%の内訳は、中国が31%で日本は2%。

By EIA

ウクライナ侵攻当初にアメリカやEUが実施した制裁において、原油は対象外という扱いでした。そのため将来的に原油まで制裁が及ぶという懸念から先物価格の高騰が生じましたが、この高騰はほどなくして沈静化しました。

By Bloomberg

こうしたロシア産原油について、Devil's Advocateは「流通量が今後低下する」と予想します。これまで市場に出回ってきた分は侵攻以前に出荷されたものであるため流通量が低下していませんでしたが、今後の流通量についてはウクライナ侵攻の影響を如実に受けるという意見です。

Bloombergによると、2022年3月第2週において、ロシア最大の国営船団・ソブコムフロットの所有する石油タンカーの約4分の1が、荷揚げ後にヨーロッパ沿岸でアイドリング状態にあるとのこと。通常ならば荷揚げ後には原油などを再度積み込むために帰港している手はずですが、原油輸入停止措置を受けて原油の販売先がなくなったため、一時的に航行を取りやめているとみられます。

By Bloomberg

Devil's Advocateによると、海上輸送されるロシア原油の70%が買い手未定の状態とのこと。そしてロシアは1カ月以内に原油の備蓄可能上限に達するとみられているため、今後は「産出量自体を絞る」というのがDevil's Advocateの見立てです。

仮にロシアが原油をあふれさせる前に売りさばこうとするならば、中国・インドに販売する以外の選択肢がありません。ロシアの原油・ガスに対する投資額を見ると、アメリカ・イギリス・キプロスなどが上位を占めますが、赤色の棒グラフで表される以下の国々は原油制裁に参加しています。そして、原油制裁に参加していない国の筆頭が、中国とインドです。

By Bloomberg

中国がロシアから輸入している原油は現状150万バレル/日ほどですが、これと同程度の品質の原油をトータルで約300万バレル/日輸入しているため、輸入先をロシアに一本化することで、ロシアからの輸入量を200万バレル/日ほど増やすというのは可能です。

By Bloomberg

ただし、現実には中国はロシア産原油の購入量を増やしていません。ロシアのウラル原油を世界で最も購入している中国石油化工集団はロシア産原油を運ぶ石油タンカーの新規契約を行っておらず、ロシア産原油を輸入して精製している中国の独立系小規模製油業者に至っては、商業的・法的不確実性によって、今後数カ月のうちに操業停止を検討せざるを得ない事態に陥っているものも出始めているとのこと。

このような状況を生み出しているのが、中国のガソリン価格安定化政策です。Devil's Advocateによると、中国国家発展改革委員会は消費者向けガソリン価格を安定させるため、国内販売されるガソリンの価格を固定化し、月2回というペースで価格改定を行っているとのこと。このシステムはガソリン価格の乱高下から消費者を保護しますが、「原油の輸入価格が販売価格を上回る」という状況を一時的に生み出してしまうため、精製停止せざるを得ない事業者が出ているわけです。

By Bloomberg

中国の石油企業はロシアに対する国際的非難を受けてロシア産原油の輸入に慎重な姿勢を見せているとのことで、ロシアに対して救いの手を差し伸べるとしても「すぐには行わない」と予想されています。

一方、中国に次いでロシア産原油の買い手として名を挙げられているインドについては、そもそも輸入規模が中国の半分以下と、仮にロシア産原油を全面的に輸入したとしても、あぶれた分をすべて引き受けるまでには至らないそうです。

By Bloomberg

ロシア産原油の輸入措置についてはインド国内にも反対意見が存在しており、インドの日刊紙・The Hinduは「ニルマラ・シタラマン財務相はロシアが『いつでも原油を割引価格で販売する』というオファーを提示してきたと明かしたが、これについて『多角的な要因を踏まえて最終判断を決定する』と述べた。ロシアからの原油輸入量を増やすという決断はアメリカやヨーロッパなどの友好国の『ロシアを孤立させる』という意向に反するものだと意識しておくべきだ。スブラマニヤム・ジャイシャンカル外務相は2022年2月に『一方的な制裁要求には屈しない』と述べたが、2019年にはアメリカの要求に屈してイラン産原油の輸入禁止措置を実施した」と報じています

仮にロシアが中国とインドに対してそれぞれ約100万バレル/日だけ輸出量を増加させたとしても、約100万~200万バレル/日の余剰が発生するというのがDevil's Advocateの見通しです。

OECDの原油備蓄量は下降線をたどっていますが、イランが原油供給量を約100万バレル/日増加させたため、ある程度の埋め合わせが行われています。

By Bloomberg

他方、シェールオイルによって世界一の産油国となっているアメリカは今回の原油不足に応じて産出量を急速に拡大するという意向はないと発表しており、これまで通りのペースで産出量の拡大を続ける見通しです。

By Bloomberg

このような状況から、Devil's Advocateはロシアのウクライナ侵攻とそれに対する欧米の制裁が続いた場合、2022年を通して原油不足は続くだろうと予想しています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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