ウクライナのIT技術者はロシアの侵攻中も仕事を続けている、「IT軍」に参加して敵の鉄道網や測位システムを攻撃する人も
ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナは、「東欧のシリコンバレー」と呼ばれるほどIT産業が急成長しており、海外企業からの委託業務を請け負う企業やITエンジニアが多数暮らしています。そんなウクライナのIT技術者たちはロシアによる侵攻中も仕事をし続けており、中には「IT軍」に参加してベラルーシの鉄道網やロシアの測位システムへの攻撃に参加する人もいるとのことです。
Ukraine’s Tech Workers Log Off, Take Shelter - WSJ
https://www.wsj.com/articles/ukraines-tech-workers-log-off-take-shelter-11646173875
Ukraine’s Vital Tech Industry Carries On Amid Russian Invasion - WSJ
https://www.wsj.com/articles/ukraines-vital-tech-industry-carries-on-amid-russian-invasion-11646247631
IT分野のリサーチやコンサルティングを行うガートナーによると、ウクライナはアメリカやヨーロッパの企業によるITアウトソーシング先として人気であり、推定8万5000人~10万人のIT労働者が海外企業によって雇われているとのこと。
サンフランシスコに拠点を置くIT企業・Totangoの従業員であるArtem Horovoi氏は、ウクライナ南部に位置するザポリージャに住んでいます。ウォール・ストリート・ジャーナルが取材した時点では、Horovoi氏は「首都のキーウ(キエフ)や西部ハリコフほどの攻撃にはさらされていない」と述べていましたが、記事作成時点ではザポリージャに位置する原子力発電所がロシア軍の攻撃を受けていることも報じられています。また、同じくTotangoの従業員であるTymofii Vlasov氏はキーウ在住であり、侵攻開始から2~3日は全く眠ることができなかったとのこと。その後、Vlasov氏は友人が住んでいる海沿いのオデッサへと避難し、友人宅に居候しています。
Totangoは合計150人の従業員のうち15人がウクライナ在住だそうで、通常はウクライナと同じタイムゾーンに位置するイスラエルのテルアビブのオフィスと共同でプロジェクトに取り組んでいます。TotangoのCEOを務めるGuy Nirpaz氏はロシアによる侵攻が始まる前、従業員に対してイスラエルへ移住する機会を与えましたが、従業員はウクライナに残ることを選択したとのこと。Vlasov氏はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、侵攻後に国民総動員令によって18~60歳の男性市民が出国禁止となる前から、「私はウクライナから離れようとは考えませんでした」と述べていたとのこと。
ロシアによる侵攻が行われる中で、Totangoはウクライナの従業員らがお互いにつながりを保てるよう、バーチャル会議を立ちあげているとのこと。バーチャル会議はウクライナに住む従業員らがつながり、情報を共有することを可能にすることが目的だそうです。Nirpaz氏はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、「現時点で最も重要なことは、明らかに彼らの安全と幸福です。生産性やその他のことを期待しているわけではありません」と述べています。
世界的なITコンサルティング企業であるMiratech Groupは、ウォール・ストリート・ジャーナルの取材時点でウクライナに300人の従業員がいると述べており、取材前に100人近くの従業員がウクライナを離れたと回答しています。Miratech GroupのCEOを務めるValeriy Kutsyy氏によると、ウクライナの従業員ができない仕事を他国の従業員がカバーしたり、 一部のチームメンバーが1日16時間働いたりすることにより、事業は継続されているとのこと。
また、Miratech GroupのITエンジニアであるOleksandr Sinitskyi氏はキーウに住んでいましたが、侵攻後に家の近くで爆発が起きたことを受け、家族と一緒に車で別の場所へ避難したそうです。こうした混乱にもかかわらずSinitskyi氏はITエンジニアとしての仕事を継続しているそうで、仕事は厳しい現実から目をそらす役に立っていると主張しています。「常にニュースや外の様子を確認することは、本当に心が落ち込みます」とSinitskyi氏は述べました。
ウクライナではSinitskyi氏のように、ロシアの侵攻中も大勢のIT労働者が仕事を継続しています。ロシアによる侵攻は東部や北部で激化していますが、一部の企業はバスを調達したり仮設住宅を確保したりして、IT労働者やその家族が比較的影響が小さい西部のリヴィウなどに移転するのを助けています。なお、IT労働者の多くは男性であるため、そのまま国境を抜けて国外へ逃げることはかなわないものの、家族だけでも逃がすケースが多いとのこと。
リヴィウにオフィスを持つ500社のハイテク企業のうち200社が加入する業界団体・Lviv IT ClusterのStepan Veselovskyi局長は、リヴィウではほとんどのIT企業が稼働を続けているとして、「海外の顧客を持つ企業が存続し、戦争中に税金と給与を支払うことは重要です」と述べています。Lviv IT Clusterは侵攻前からリスクの高い東部地域から、加入企業の従業員をリヴィウなど西部の都市へ移転させる計画だったそうですが、計画を活性化した頃に侵攻が始まってしまったとのこと。
リヴィウ最大のソフトウェア開発企業であり、オフィスには2000人もの労働者を抱えているN-iXのCEOを務めるAndrew Pavliv氏は、「私たちは絶えず何かが起きるかもしれないことを示す空襲警報を聞き、人々はシェルターに逃げなければなりません」と述べつつも、従来の約70%のサービスを顧客に提供し続けているそうです。「仕事はニュースを読まないで済む逃避先でもあります」とPavliv氏は述べており、厳しい状況下では仕事が気晴らしになると主張しています。
また、ウクライナに200人以上の従業員を抱えるSombraというソフトウェアエンジニアリング企業は、IT労働者はクライアントに出荷するコードの開発に従事する一方、営業として働いていた従業員は戦争活動のボランティアを行っているとのこと。SombraのCEOを務めるViktor Chekh氏は、「私たちは収益を生み出すために働く必要があり、全ての収益を軍隊に送ることができます」と述べました。
中には従業員をウクライナ国外へ退避させた企業も存在しており、ウクライナ最大のITアウトソーシング企業であるSoftServeは、ウクライナに拠点を置く従業員2000人のうち半数をポーランドやブルガリアに退避させ、残り半数もウクライナ西部へ移転させたとのこと。N-iXのPavliv氏も、ロシアが国の大部分を支配することになった場合、ウクライナから近隣諸国へ全ての従業員を移転させる危機管理計画を持っているそうです。「私はそれについて話したくありません。ウクライナが占領されるという最悪のシナリオでは、人々はウクライナから出ていってしまうでしょう。私は心からそうならないことを願っています」と述べました。
ウクライナで働き続けるIT労働者の中には、政府が設立した「IT軍」に加入してロシアやベラルーシへの攻撃に参加する人もいます。ロイターによると、IT軍は兵士輸送に使われるベラルーシの鉄道網、ロシアがGPSの代替として使う衛星測位システムのGLONASSなど、重要なインフラストラクチャーへの攻撃などを行っているとのことです。
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