なぜ標本の保管に「アルコール」が使われるのかを専門家が解説、貴重なサンプルを破壊することなく保存するコツとは?
by marc
研究室や博物館で見かける、ガラス瓶に入った生物の標本などで、防腐剤としてホルムアルデヒドの水溶液(商標名:ホルマリン)と並んでよく用いられるのがアルコールです。アルコール飲料や手指消毒剤などとしても身近に親しまれているアルコールが数百年間もサンプルを保存できるメカニズムについて、学術系ニュースサイトのLive Scienceが解説しました。
Why is alcohol used to preserve things? | Live Science
https://www.livescience.com/why-alcohol-preserves.html
インディアナ大学ブルーミントン校で化学を教えているビル・キャロル氏は、なぜアルコールが防腐剤として使われているのかについて、高いアルコール濃度が微生物の発生を抑えるという点を指摘。ワインを例に挙げ、「ワインでは酵母がブドウ糖の糖分を食べてアルコールを作ります。しかし、アルコールの濃度が高くなりすぎると酵母にとっても毒となり、酵母も死滅してしまいます」と話しています。カリフォルニア産ワイン専門のニュースおよびレビューサイト・California Wine Advisorによると、14%ほどのアルコール濃度があれば、微生物の繁殖を何年も抑制することが可能とのことです。
また、ワシントン州にあるバーク博物館で魚類のコレクションを担当しているキャサリン・マスレニコフ氏は、「動物などの有機物を保存するには、より高いアルコール濃度が必要になります」と話しています。マスレニコフ氏が魚を標本として保管する場合は、まずホルマリンを注入して酵素の働きなどによる劣化をストップさせるとのこと。その後、濃度70%のアルコールを入れた瓶の中にサンプルを詰めて、魚の標本にします。
マスレニコフ氏は、「『70%』はまさに魔法の配合です。水も十分含まれているので体組織から水分が失われず、形を残したまま保存することができます」とコメントしました。
さらに高いアルコール濃度、例えば95%のエタノールは脱水剤として作用するので、細胞や体組織の水分をアルコールに置き換えたい場合に用いられます。ただし、アーカンソー州立大学が公開している「Ask a Biologist」のコラムによると、アルコール濃度が高すぎて水分が少なくなるとタンパク質が変性し、標本が固まってしまうおそれがあるそうです。なお、この作用を利用した細胞中のDNAを保存する手法も存在します。
by Merryjack
アルコール濃度は高すぎても少なすぎても問題になります。カンザス大学生態学研究センターに勤めるクリストファー・ロジャース准教授は、「標本の体組織に十分な水分が残っているとアルコールが希釈され、動物の腸などでは殺菌が不十分になり、微生物によって標本が分解されることもあります。これを防ぐには、24時間アルコールに浸した後、アルコールを交換するのが肝要です」と話しています。
また、キャロル氏はアルコールで標本を作るポイントについて、「アルコールを防腐剤として使うには、微生物の繁殖を抑えつつ標本の細胞構造を破壊しないような、ベストなアルコール濃度を探る必要があります」と話しています。
・関連記事
死後も保存されている有名人たちの体の一部 - GIGAZINE
中身がよく見える本の標本 - GIGAZINE
生野菜の栄養をそのままに長期間保存する方法とは? - GIGAZINE
宇宙で作るウイスキーと地球で作るウイスキーにはどんな差が生まれるのか - GIGAZINE
・関連コンテンツ