乳牛を利用せずに「本物と分子レベルで同じタンパク質を持つ乳製品」を生産するスタートアップとは?


以前から大豆を使った豆乳やオーツ麦を使ったオーツミルクなど、植物原料を使用した牛乳の代替品は広く流通していますが、これらは成分の面で牛乳と大きく違います。そこで、アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置くPerfect Dayというスタートアップは、「乳牛を使わずに牛乳と分子レベルで同じタンパク質を持つ乳製品」を製造しているとCNNが報じています。

Perfect Day is creating 'real' dairy, without cows - CNN
https://edition.cnn.com/2021/08/12/business/perfect-day-dairy-protein-hnk-intl-spc/index.html

カリフォルニア州に拠点を置くPerfect Dayは、味や機能が本物の牛乳を使ったものと同じでありながら、その製造過程に乳牛を使わない乳製品の開発・製造を行っています。Perfect Dayの共同創設者兼CEOであるRyan Pandya氏は、「私たちは牛乳に何が含まれているのかという問題に興味をもっていました。それは植物ベースの代替ミルクには欠けている、信じられないほど多くの機能と栄養をもたらします」とCNNに述べています。

牛乳の味や機能においてタンパク質が重要な役割を果たしていると気付いたPerfect Dayは、「動物を使わないで牛乳に含まれるタンパク質を作るにはどうすればいいのか?」という課題に取り組みました。


そしてPerfect Dayの研究チームは、「真菌などの微生物を利用してタンパク質を作り出す」という解決法にたどり着いたとのこと。この方法ではまず、牛乳に含まれるホエイプロテインをコードする遺伝子を集め、真菌に導入します。この真菌をビールやワインを製造するような発酵タンクに入れ、さらに少しの砂糖を加えることで、真菌が牛乳に含まれるタンパク質を作り出すそうです。


真菌によって製造されたホエイプロテインはフィルターでろ過され、乾かしてから乳製品の素材として使用されるそうです。ラクトース(乳糖)や動物由来のホルモンを含まないPerfect Dayのホエイプロテインを使った食品は、動物からの搾取を避けるヴィーガンの人々でも食べられる「ヴィーガンフレンドリー」な乳製品となっています。


Perfect Dayは2020年にN!ck'sGraeter'sといったアイスクリームブランドと提携し、乳牛を介さずに製造したホエイプロテインを使った「Brave Robot」というアイスクリームの販売を開始しました。すでにBrave Robotはアメリカ全土の5000店舗で購入できるほか、香港でもPerfect Dayのホエイプロテインを利用したアイスクリームが販売されているとのこと。


また、Perfect Dayはヨーグルト・モッツァレラチーズ・クリームチーズといったさまざまな乳製品の開発も行っており、2021年後半にはクリームチーズが市場投入される予定だそうです。

乳製品の製造プロセスから乳牛を除くことは、単にヴィーガンにとってフレンドリーな乳製品を提供するだけでなく、環境に優しいという点でも注目に値します。牛などの家畜は大量の温室効果ガスを排出することが知られており、2015年には全世界で17億トンもの二酸化炭素が乳製品の製造過程で排出されました。これに対し、Perfect Dayのテクノロジーを使うことにより、乳製品の製造における二酸化炭素排出量が85~97%も削減できるとのこと。


持続可能な乳製品に目を向けているスタートアップはPerfect Dayだけではなく、カリフォルニア州のスタートアップであるNew Cultureは発酵プロセスを用いて乳牛を介さないチーズの製造を行っているほか、TurtleTree Labsというスタートアップは培養細胞を用いたミルクを作っています。代替タンパク質の革新を促す非営利団体のGood Food Instituteによると、2020年には5億9000万ドル(約645億円)が発酵代替タンパク質の分野に投入され、そのうち3億ドル(約330億円)がPerfect Dayに投資されたそうです。

代替乳製品を製造する企業が直面する課題としては、「規制当局の承認を得るために時間がかかること」「製品価格が通常の乳製品よりも高くなってしまうこと」などが挙げられます。たとえば、Perfect Dayのアイスクリームはハーゲンダッツなどの高級アイスクリームとほぼ同じ価格だとのこと。

Pandya氏によると、Perfect Dayはカナダやインド、ヨーロッパの規制当局に対しても承認を求めているほか、乳製品業界のパートナーも探しているそうです。「これはまだ乳製品を愛しているものの、自分自身や地球、そして動物のためによりよい乳製品を欲している人々のための製品です」「私たちはより優しく、より環境に優しい食品を作るための方法を乳製品の分野で開発していますが、これは1人ではできません」とPandya氏は述べました。

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in サイエンス,   生き物,   , Posted by log1h_ik

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