ベジタリアン食や植物肉の広まりに伴って見落とされがちな「負の側面」とは?

by Ted Eytan

近年はヴィーガニズム菜食主義が台頭しており、植物原料を使用した人工肉は今や本物の肉に匹敵するほどの仕上がりになっています。そんな中、学術系メディアのThe Conversationは、「菜食主義や植物肉の台頭には人々が気づきにくい『負の側面』がある」と指摘しています。

The dark side of plant-based food – it's more about money than you may think
https://theconversation.com/the-dark-side-of-plant-based-food-its-more-about-money-than-you-may-think-127272

一口に菜食主義といっても、宗教の教義に基づいて菜食主義を実行するケースや、動物愛護の観点から動物由来の食品を拒否するなどさまざまなケースがあります。また、「環境問題を解決するために畜産業を放棄するべき」という立場の人も増えています。

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その一方で専門家のMartin Cohen氏とFrédéric Leroy氏は、「これまで人々の食料の傾向は、政治や経済的な動機によって左右されてきました」と指摘。国家が治世を安定させるために、国民への食料供給を重視する動きは古代ローマ時代から存在し、政治家は社会を形作る方法として食料政策や農業政策に目を向けてきました。たとえばイギリスでは、穀物価格を維持して地主貴族層の利益を保護するために、1815年から1846年にかけて穀物法が施行されていました。

また、ヨーロッパ全域では1845年から1849年にかけてジャガイモの疫病が大流行し、多くの人の食事が「ジャガイモと少しの牛乳」だったアイルランドでも壊滅的な被害が発生しました。ところが、アイルランドの領主である貴族は、ほとんどがグレートブリテン島に住んでいたイングランド人やスコットランド人であり、餓死者が出ているにもかかわらず食料の輸出を進めたため、深刻なジャガイモ飢饉が発生してしまったとのこと。このエピソードは、食料政策が富裕層と貧困層の間の戦いであったことを示す一例だと、Cohen氏らは指摘しています。

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近年の先進国における菜食主義の高まりについても、過去の事例と同様に経済的な文脈で再解釈することが可能だとのこと。たとえば菜食主義が推進される中で、農家はかつてないほど安価に野菜や果物、穀物を流通させることを求められています。その結果として、「小規模な農業を展開する中小農家は苦境に陥り、工業的な農業を行って大量の食料を安価に生産可能な大規模農家が市場において勝利する傾向が強まっている」との指摘がされています。

また、近年では植物由来の原料を使用した人工肉・植物肉が称賛されており、食料生産の拠点が農場から工場へと移行する動きもみられます。人工肉や人工乳製品などのビーガン食産業は毎年10%の規模で成長しており、2026年までに市場規模が243億ドル(約2兆6500億円)に達するとの予測もあるそうで、農業産業は大きく揺れ動いているとのこと。

この動きは単に中小農家を排除するだけではなく、「地元農家が持っていた政治的な力が、多国籍企業やバイオテクノロジー産業へと移行する」という、政治的な変動ももたらします。アメリカのシンクタンクであるRethinkXの研究者は、「私たちは農業の歴史において最も速く深刻で、最も重要な混乱の最前線にいます」と述べ、2030年までにアメリカの畜産業界が崩壊する危険もあると指摘しました。

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多くの混乱が予測されていても、菜食主義を推進している人々は、「動物由来の食品を切り捨てることは大局的に見て地球や人間の利益にかなっている」と考えるかもしれません。しかし、大量の人口を抱えると同時に貧困に苦しむインドやアフリカといった多くの地域では、菜食主義の推進が大きなダメージになりかねないとCohen氏らは指摘。デンプン主体の食物で生活する数億人の貧困層にとっては、動物由来の食品は健康を維持し、生命をつなぐために必要不可欠な栄養素を含んでいるとのこと。

また、家畜を飼育することによる収入は貧困の削減、ジェンダー公平性の向上、および生活全般の向上にとって重要な役割を果たしています。さらに、植物を生産する農業においても家畜は重要な役割を果たしており、家畜由来の堆肥や家畜が提供する労働力は、貧困層が持続可能な農業を行う上で方程式から外すことはできません。伝統的な畜産は貧困層の人々を栄養失調から救い、経済的安定を提供するものだといえます。

by livestockcrsp

その一方で、菜食主義を擁護する欧米の人々は、ほとんどこの問題点に気づいていないとCohen氏らは主張しています。中には「多くの人々が菜食主義を実践している絶好の例」としてインドを挙げる活動家も存在していますが、インドは2019年の世界飢餓指数で117カ国中102位に位置しており、生後6カ月~23カ月の乳幼児のうち、推奨される栄養素を摂取できる割合はわずか10%しかありません。

さらに、インドは住民の40%が菜食主義といわれていますが、実際には肉を食べる宗派の人も多く住んでいます。その一方で、近年ではヒンドゥー教至上主義が高まりを見せており、菜食主義への主導は政治的な意味合いを強く持っているとのこと。

また、アフリカでは多国籍企業による工業的な農業が広まりつつありますが、これによって従来の家族的な農業を営んできた人々が肥沃な土地を奪われており、社会的不平等や食料状況の悪化が進んでいるそうです。

Cohen氏とLeroy氏は、「倫理的な食事」や「地球の持続可能性」といった言葉によって、貧困層の栄養不足や食料主権の問題、あるいは政治的偏見が覆い隠されがちだと指摘。人々が摂取する食料は産業や政治と密接に結び付いていることを、人々は思い出すべきだと2人は呼びかけました。

by livestockcrsp

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in , Posted by log1h_ik

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