「社会は昔よりも悪くなっているわけではない」と研究結果は示唆している

SNSでは「昔より凶悪犯罪が増えた」「モラルのない人が目立つ」といった意見がよく見られ、社会が昔より悪化していると感じている人は多くいます。しかし、イギリスのエセックス大学心理学部で上級講師を務めるポール・ハネル氏は、多くの研究結果は現代社会について前向きな結果を示していると主張しています。
Think society is in decline? Research gives us some reasons to be cheerful
https://theconversation.com/think-society-is-in-decline-research-gives-us-some-reasons-to-be-cheerful-268834

多くの人々が「社会は昔より悪くなっている」と感じていることは、さまざまな調査によって裏付けられています。2023年6月に発表された調査結果では、60カ国以上の人々が「基本的な礼儀作法が低下している」と感じていることが示されたほか、2025年に9600人のアメリカ人を対象に行われた世論調査では、回答者の47%が「COVID-19のパンデミック前よりも公共空間における人々の振るまいが悪くなった」と感じていることがわかりました。
しかしハネル氏は、人々の認識は不正確であることが多いと指摘しています。実際に人々の行動を導く価値観に目を向けた研究では、「社会は昔よりも悪くなっている」という認識と異なる結果が出ているとのこと。
49の文化圏にまたがる3万2000人を対象にした2022年の研究では、忠誠心・誠実さ・人助けといった価値観が高く評価され、権力・富といった価値観は最も低く評価されていることがわかりました。ヨーロッパ社会調査のデータを用いたインタラクティブツールでも、この傾向は2002~2023年にかけて30カ国以上のヨーロッパ諸国で一貫していたことが示されています。
さらに、教育水準・宗教・性別などが異なる60カ国以上にまたがる研究でも、人々の価値観はおおむね一致していることが確認されています。こうした結果からは、人々のモラルが低下しているという考えを裏付けるものは見つかりません。
中には、「自分たちのような考えの人間はともかく、政治的に異なる意見を持つ人々のモラルは低下している」と感じる人もいるかもしれません。しかし、アメリカで合計およそ2500人の民主党員と共和党員を調査した研究や、イギリスのEU離脱派と残留派を対象にした研究では、異なる政治的意見を持つ人々の間でも価値観は驚くほど類似していると報告されています。

以上の研究は行動を導く価値観について調べたものですが、実際の行動を調べた研究でも、ほとんどの人々が実際には道徳的な行いをすることが示されています。たとえば、実際にカメラ映像で記録された公共の場での紛争について調べた研究では、傍観者がいるケースでは10件中9件で人々が仲裁に入っていることがわかりました。この結果はオランダや南アフリカ、イギリスなどさまざまな国で一致していました。
また、40カ国の355都市で「さまざまな金額が入った財布を街中に落とす」という実験を行った2019年の研究では、40カ国中38カ国で「より多くの現金が入っている時の方が財布が戻ってくる可能性が高かった」という結果になりました。これは、財布の中にお金が入っていることに気付いた人々が、「こんなにお金が入った財布をなくした落とし主は困っているだろう」と考え、財布を施設や警察に届ける可能性が高くなったことを示唆しています。
2023年に行われた別の実験では7カ国に住む200人の被験者に対し、ほぼ無条件で1万ドル(約155万円)を与えてその使い道が調べられました。その結果、被験者は平均1700ドル(約26万円)を慈善団体に寄付し、寄付と合わせて6400ドル(約99万円)を他人のために使ったことがわかりました。
中には、「確かに現代人もある程度のモラルは持っているけれど、昔の人々の方がもっと道徳心にあふれていた」と考える人もいるかもしれません。しかし、1950年代~2010年代のデータを分析した研究では、アメリカ人は昔より見知らぬ人に対してわずかに協力的になったことが明らかになっています。

実際に社会全体のモラルが低下している証拠がないにもかかわらず、多くの人々が社会が衰退していると考える理由のひとつとして、ハネル氏はニュースメディアがネガティブな出来事に焦点を当てる傾向があるからだと指摘。ハリケーンなどの災害時に人々は互いに協力し合っていますが、多くのメディアは一部のパニックや残酷な状況を報道しがちで、ネガティブなニュースはSNSなどで共有される可能性も高いとのこと。
さらに、左派であれ右派であれ極端な政治的見解を持つ人々はオンラインで意見を発信する可能性が高く、SNSで目にする意見は決して人口全体を代表するものではありません。確かに、オンラインでの児童虐待の深刻化など、社会の中には以前より悪化している側面もありますが、他人に対して過度に悲観的になるのは問題だとハネル氏は述べています。
過去の研究では、「他の人々は利己的な価値観を重視しており、思いやりのある価値観を軽視している」と誤って信じている人は、ボランティア活動や投票を行う可能性が低いことが示されています。これは、「絶対に恩返しをしないであろう相手に親切にするのは嫌」と考える人が多いためだと推測できます。
一方、多くの実験では「他の人々も平均的には自分と似た価値観や信念を持っている」と気付くことで、将来への信頼感や希望が高まることがわかっています。友人であれ親しくない相手であれ、他の人と話すことで「周囲の人々は自分が思っているよりも友好的だ」と気付くことができます。
ハネル氏は、「端的に言えば、一部の悪質な行動が増加しているという事例があるにせよ、道徳的な衰退は起きていないという証拠が示されています。もし私たちが皆、『他の人は自分を害するつもりだ』と決めつけて会話するのをやめ、他人のために一歩踏み込んだ行動を取らなくなれば、皆が自己中心的な人間になって社会が衰退するリスクがあります。幸いなことに、私たちや社会は自らの運命に影響を与えることができるのです」と述べ、社会をより良くするためにも前向きになるべきだと主張しました。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article Research suggests society is no worse of….







