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「モラルには地域差がある」ということが自動運転車の倫理的ジレンマ判定ツールによる調査結果から判明

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自動運転車が実用化されると人為的な操作ミスによる事故が減るため、結果的に自動車事故は減少するといわれています。その一方で自動運転車を持ってしても回避不可能な事故が発生することは避けられず、そのような事故に直面した場合、「自動運転車は乗員の命か歩行者の命、どちらを優先すべきなのか?」という倫理的な問題が浮上します。そんな倫理的ジレンマに対する考えを世界規模で調査した結果、「世界共通のモラルというものはなく、モラルの方向性には地域差が出る」ことが明らかになりました。

The Moral Machine experiment | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0637-6

Self-driving car dilemmas reveal that moral choices are not universal
https://www.nature.com/articles/d41586-018-07135-0

自動車が歩行者をひきそうになった場合、乗員の命を優先してそのまま歩行者にぶつかるようにプログラムするべきなのか、それとも歩行者の命を優先して乗員を危険にさらしてでも無理な回避を取るようにプログラムするのかは、自動運転車の実用化に際して大きな問題となります。マサチューセッツ工科大学の研究チームは、「モラル・マシン」という仮想の事故に直面した際にどのような決断を下すのかを調べるツールを用い、世界中の人々がどのような倫理意識を持っているのかというデータを収集して分析しました。

モラル・マシンの調査では絶対に誰かが死んでしまう13のシナリオが用意され、回答者は死んでしまう人の年齢や貧富の差や人数といったさまざまな変数の中から、誰を死なせて誰を救うべきと考えるのかを答えました。実際にそのような状況に直面した経験のある人は少なく、一部の人々は「このようなクイズで提起されたシナリオは、本当に意味があるのか」と批評していますが、研究者らは一般のドライバーも日々の運転で微妙な道徳的判断を日々迫られているものだと主張しています。

研究チームは心理学者や人類学者、経済学者を集めた国際チームの手によってモラル・マシンを完成させ、18カ月の運用で得られたデータを分析しました。データには世界中の223カ国の人々が行った合計4000万もの「倫理的にギリギリの状況での選択」データが含まれているとのこと。

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その結果、年齢や性別、国や居住地といった要素に関係なく、人々はペットの命よりも人間の命を優先し、少人数よりも大人数の命を優先するという傾向が明らかになりました。ある程度の国際的傾向が明らかになったことで、自動運転車に搭載する倫理的判断プログラムに、一定の方向付けができることが示唆されています。

一方で、研究チームが少なくとも100人以上の回答者が得られた130カ国の回答データを分析すると、「国によってモラルの判断基準に違いがある」という事実が浮かび上がったとのこと。それぞれの国は北アメリカやいくつかのヨーロッパの国々を含みキリスト教の影響が強い「西側」グループ、日本やインドネシア、パキスタンなどの儒教やイスラム教の影響が強い「東側」グループ、最後の1つが中南米やフランス、フランスの旧植民地で構成される「南側」グループという3つのグループに分けられるそうです。

これらのグループにはそれぞれ固有の傾向があることが確認されています。たとえば1つ目のグループは、若い人の命を救うために高齢者の命を犠牲にする傾向が見られましたが、2つ目のグループでは若者の命よりも高齢者の命を優先するといった傾向があるとのこと。

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以下の画像は、「西側」「東側」「南側」の3つのグループの傾向を1つの図に表した「モラル・コンパス」です。「西側」や「南側」では多くの人数を助けようとする傾向にある一方、「東側」ではあまりそういった傾向が見られません。また、「南側」は自動運転車の進行方向を変えてある集団を助けるため意図的に行動することに積極的で、「西側」や「東側」はあまり自動運転車の進路を変えたがらないなど、グループごとに見られる興味深い傾向が確認できます。


研究チームによると、フィンランドや日本などの強固な行政機構が築かれている国々では、ナイジェリアやパキスタンのように政府による統治が行き届いていない国々よりも、違法に道路を横断した歩行者にぶつかろうとする傾向があるとのこと。また、道路に企業の経営幹部といった社会的ステータスの高い人を配置した場合と、ホームレスのように地位の低い人を配置した場合でも、興味深い差が現れました。フィンランドのように経済格差の小さい国々では、どちらか一方の命を優先しようという考えが薄い一方で、コロンビアのように経済格差の大きい国々では、ホームレスのように社会的地位の低い人を死なせようとする傾向がありました。

カナダのブリティッシュコロンビア大学の心理学者であるアジム・シャリーフ氏は、今回の調査結果は人々の倫理意識の違いを反映したものであり、非常に興味深いとしています。「今回の結果から、所得格差のレベルが低い場所では平等主義的な政治意識を人々が持っており、緊急時に助けるべき命についても平等だと考えているのではないかと推測できます」と、シャリーフ氏は語っています。

研究に参加したコンピューター研究者のイヤード・ラフワン氏は、「自動運転車のための完全で普遍的なルールというものはないということが、今回の結果から示されました」と述べており、自動運転車が社会に受け入れられるためには、その社会ごとに個別の倫理的コンセンサスが必要になるかもしれません。

なお、今回の調査に使用された倫理意識判定ツールのモラル・マシンは、以下の公式ページから実際に使用可能です。

モラル・マシン

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in メモ,   ソフトウェア,   乗り物, Posted by log1h_ik

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