サイエンス

「高い自殺リスクと関連する遺伝子」が存在することが判明

by tazzanderson

全世界における死亡のうち実に1.4%が自殺による死亡だともいわれており、自殺は世界的に社会問題となっています。そんな自殺には精神疾患、特にうつ病との関連が指摘されているほか、親戚が自殺で死亡している人は自殺を考える割合が高いことも示されています。そんな自殺についての研究を行ったイギリスの研究チームが、「高い自殺リスクと関連する遺伝子」があることを発見しました。

Identification of novel genome-wide associations for suicidality in UK Biobank, genetic correlation with psychiatric disorders and polygenic association with completed suicide - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352396419300775

What our new study reveals about the genetics and biology of suicidal behaviour
https://theconversation.com/what-our-new-study-reveals-about-the-genetics-and-biology-of-suicidal-behaviour-111878

自傷行為についての考えから実際の自殺を実行するに至るまでの自殺行動は複雑なものであり、わかっていないことが多いとのこと。自傷行為については必ずしも精神に問題を抱えている人だけが行うわけではなく、過去に精神疾患を発症した経験のない人でも自傷行為をする可能性があります。


人間が持つ遺伝子の差異は個人の性格や精神疾患のリスク、アルコールやドラッグに依存しやすいかどうかまで、さまざまな影響を与えます。精神疾患は自殺のリスクに関連していると見られる一方で、自殺には社会との関わりや経済状況、生活サイクルに環境といった多くの要因も絡み合っており、精神疾患はあくまでも一つの要因に過ぎません。

精神疾患がなくても愛する人との死別や離婚、経済的不安などの経験が人を絶望に追いやることは十分に考えられます。悲観的な人や完璧主義者は、これらの否定的な人生経験がさらに深刻な悪影響を与え、自殺念慮や実際の自殺につながることがあるとのこと。また、衝動的で攻撃的な性格の人が薬物やアルコールの影響下にある場合、行為の結果を考えずに銃を自分に向けたり高いところから飛び降りたりといった方法で、自分を傷つけてしまうかもしれないそうです。

by picjumbo.com

グラスゴー大学の研究チームは自殺念慮や自殺行動と遺伝の関連について調べるため、イギリスのバイオバンクを利用することにしました。イギリスのバイオバンクは50万人分もの広範囲にわたる情報が集められており、身長や体重、血圧といった健康状態や食生活、運動習慣、家族や個人の病歴、現在かかっている病気などの情報が利用可能となっているほか、調査をDNAを分析する目的で血液サンプルを提出している人も多くいます。

研究チームは6年にわたる調査の中で、バイオバンクの中から選ばれた15万7000人に対するアンケート調査を実施しました。対象者は精神疾患の有無によって選別されておらず、精神疾患を持っている人もいれば、そうでない人もいたとのこと。アンケートには「人生に生きる価値がないと考えたことがあるか」「自傷行為を検討したことがあるか」「自傷行為をしたか」「自殺を企図したことがあるか」といった内容が含まれ、参加者の精神的健康についてチェックしたそうです。

そして参加者の血液サンプルをもとにそれぞれのDNAの違いと自傷行為や自殺についての考え、実際の行動を重ねて分析したところ、DNAにおける3つの領域の差異が自殺に関する思考や行動に関連していることを特定したと研究チームは述べています。バイオバンクの登録者には実際に自殺で死亡した人も少数存在し、自殺者のDNAを分析したところ、自殺に関連すると考えられる遺伝子が多く含まれていたことも確認できました。DNA全体をみると、やはり自殺との関連がある遺伝子はいくつかの精神疾患のリスクを高める遺伝子との重複があり、特にうつ病や不安障害に関する遺伝子と高い自殺リスクに関連する遺伝子の重複がみられたとのこと。

by HASTYWORDS

高い自殺リスクとの関連がある遺伝子についての研究は、さらに「自殺リスクに関連する遺伝子は人格に影響するのか?」「高い自殺リスクと関連する遺伝子はそれだけで自殺リスクを高めるのか、それともライフスタイルや否定的なイベントと組み合わさることで自殺リスクが高くなるのか?」「個人の自殺行動を予測するのに遺伝子が役立つのか?」といった問題について調査を進める必要があります。自殺は世界的な問題となっており、個人の自殺を予測できる有用なシステムが開発されれば、事前に対象者へケアを行うことで自殺を食い止めることができるかもしれません。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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