自閉症と統合失調症には同じ遺伝的ルーツがあることが名古屋大学の研究結果からより確実に
By National Human Genome Research Institute
先天的な原因により発症する自閉症と統合失調症は、ともにゲノムコピー数変異(copy number variation:CNV)と呼ばれる遺伝子の変異に起因していることを裏付ける新たな研究結果が名古屋大学の研究チームによって発表されました。
Comparative Analyses of Copy-Number Variation in Autism Spectrum Disorder and Schizophrenia Reveal Etiological Overlap and Biological Insights: Cell Reports
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(18)31293-2
We Just Got Even More Evidence That Autism And Schizophrenia Share Genetic Roots
https://www.sciencealert.com/overlapping-pathogenic-copy-number-variation-autism-schizophrenia-japanese-population
これまでにも、「CNVが自閉症と統合失調症に関連がある」という仮説を裏付ける証拠が研究から明らかにされていましたが、その多くは西洋人を対象にした研究にもとづくものでした。しかしその仮説は、2018年9月11日に学術論文メディアCell Reportsで発表された名古屋大学大学院の研究チームによる論文により、より確実なものとして裏付けられるに至っています。
この発表を行ったのは、名古屋大学大学院医学系研究科で精神医学を研究する尾崎紀夫教授らの研究チームです。尾崎教授らは国内の研究機関と共同で、自閉スペクトラム症と統合失調症の患者を対象にゲノムコピー数変異を全ゲノムで解析した結果、発症に関与する病的意義をもつCNV(病的CNV)と生物学的なメカニズムに関して、両疾患に重複(オーバーラップ)する部分が存在することを明らかにしました。
自閉スペクトラム症と統合失調症:2つの精神疾患における発症メカニズムのオーバーラップを発見~ゲノム医療への展開に期待~
(PDFファイル)https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Cell_R_20180912.pdf
統合失調症と自閉スペクトラム症は、精神症状による精神医学的な診断基準により異なる精神疾患として区別されていますが、最近の疫学研究から、この2疾患の病因・病態はオーバーラップしている可能性が示唆されてきました。CNVはDNAを構成するゲノムの染色体が不完全に複製されたときに生じるもので、染色体が通常とは異なって反復的に複製されてしまう状態です。反復の回数は人によって大きく異なりますが、ゲノムの10%までがCNVに分類される可能性があります。
研究チームでは、全体で5500人以上の自閉スペクトラム症と統合失調症の日本人患者および健常者を対象に「アレイCGH」という手法を用いてゲノム全体のCNVを詳しく解析し、2つの患者群でデータの比較解析を実施。その結果、両疾患の患者のそれぞれ約8%で既知の病的CNVが見つかりました。これらの変異は、染色体上に広く分布しますが、両疾患に共通するものも29のゲノム領域で見つかり、リスク変異がオーバーラップすることが確認されています。また、CNVのうち「22q11.2」とよばれる領域は自閉スペクトラム症、また、22q11.2欠失、1q21.1欠失、47,XXY/47,XXXと統合失調症の関連が統計学的にも有意であることなどが見出されています。
研究の成果について研究チームは「自閉スペクトラム症と統合失調症のゲノム変異にもとづく診断の開発や病態の解明、将来的には新規治療薬の開発に役立つ可能性があります」と述べています。また、今後の展開については「自閉スペクトラム症と統合失調症の患者の各々8%で発症に関連したCNVが特定できたことから、この知見を患者の診断・治療に利用するゲノム医療への展開が期待できます」「また、病的CNVをもつ患者から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り出し、神経細胞に分化誘導して疾患モデル細胞として活用することにより、病態研究や創薬開発に活用する展開も考えられます」などと方向性を示す一方、「同一の病的CNVから異なる精神疾患が起こるメカニズムについては不明であるため、さらに研究を続ける必要があります」と述べています。
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