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サイエンス

突然クリエイティビティを大爆発させるパーキンソン病患者がいるのはなぜなのか?

by ivanovgood

手が震えたり歩行がうまくいかなくなったりといった症状で知られるパーキンソン病患者のクリエイティビティが突如として爆発し、これまで芸術に縁が無かった人がアーティストとして花開くといった事例が多々報告されています。近年は「なぜパーキンソン病患者はクリエイティビティを爆発させるのか?」という研究が進められており、その謎が徐々に解き明かされてきています。

Parkinson’s Disease Uncovers Hidden Creativity
http://nautil.us/issue/64/the-unseen/the-most-dangerous-muse-rp

アーティストとして活躍する59歳のTsipi Shaishさんは、2006年にパーキンソン病と診断されるまで、保険会社に25年間勤めながら2人の子どもを育てるという、芸術に縁のない人生を送っていました。しかし、2018年現在のShaishさんは「好奇心を感じてキャンバスに向かうと、制御できない衝動を感じます」と語っており、直感に従い鮮やかな絵画を作成しています。

パーキンソン病は手の震えや動作・歩行の困難といった運動障害が症状として知られていますが、その原因は詳しくわかっていません。病気の仕組みとしては、特定の神経伝達物質、特にドーパミンを作る脳細胞が死にはじめることで運動が制御できなくなり、手の震えといった症状が出てくるとみられています。

パーキンソン病の治療薬は、大きく分けて「ドーパミンを模倣するもの」と「実際の神経伝達物質を作り出すための前駆体をニューロンに与えるもの」の2タイプがありますが、いずれもドーパミン作動性ニューロンを活性化させるという共通点を持ちます。パーキンソン病財団のJames Beck氏は、「パーキンソン病によってドーパミン分泌量が少なくなり脳細胞が死ぬと、ドーパミンを待ち受けるためにニューロンがより化学物質に敏感になる」と説明。ドーパミン不足により化学物質に敏感になったニューロンが突如として活性化されることが、パーキンソン病患者における「行動変異」の原因だと研究者たちは考えているとのこと。ドーパミンは運動の制御だけでなく、報酬を求める行動やリスクを取る行動、依存などとも関連性があるためです。

by geralt

脳の変性や薬の服用はパーキンソン病患者にとって一般的ですが、クリエイティビティの爆発は一部の患者のみにしかみられません。なぜこのようなことが起こるのかについて研究者は原因を突き止めていませんが、「一部の患者にはクリエイティビティの潜在的能力があるのではないか」とBeck氏は語りました。

しかし、「クリエイティビティの爆発」以外の形でパーキンソン病治療薬の影響が出る人もいます。2000年初頭には、パーキンソン病の患者がギャンブルで貯蓄を失ってしまったり、性欲過剰で結婚生活を壊してしまったり、単純により多くの薬を求めるようになったという事例も報告されています。2005年、これらの人々は「ドーパミン調整障害症候群」と分類されました。

ペンシルバニア病院のAnjan Chatterjee氏は、パーキンソン病患者の「破壊行動」と「芸術への強迫観念」は関連するものだと見ており、絵を描くタイプの人は芸術を通して衝動やリスク行動を表現しているのだと説明しています。芸術への行動に駆られる患者は絵を描くために朝4時に起きるとのことで、ひたすら芸術と向き合うさまは「儀式的な要素がある」とChatterjee氏は説明しました。

by Free-Photos

Chatterjee氏は人間のクリエイティビティを以下の4つのステージに分類しています。

1.アーティストが技術を身につけ素材を求めるステージ
2.アイデアが頭の中に潜在的にあるステージ
3.別々のアイデアが融合され新しい1つの方法として生まれるステージ
4.アーティストが意識的に行動し作品を生み出すステージ

このうち、ドーパミン作動薬は「集中」と「勢い」を必要とする第1ステージと第4ステージに影響を与えるとChatterjee氏はみています。

Sheba Medical Centerの研究者であり神経学の専門家でるRivka Inzelberg氏も、何人もの患者がアート作品を自分に見せてくる、という体験をした1人。2013年に医療報告を調査したところ、数十人のクリエイティブなパーキンソン病患者の存在を発見したとのこと。

2014年、Inzelberg氏は27人のパーキンソン病患者と、患者と同年齢で同じ学歴を持った27人の対照グループのクリエイティビティを比較するという研究を行いました。この時、被験者がどのくらい強迫観念に捉えられているのかも測定されました。しかし調査の結果、「ドーパミンの薬がクリエイティビティを爆発させる」という仮説は裏切られることになります。全体的に見ると、2つのグループの被験者のアンケート結果は同様の点数で、強迫観念が強い人がクリエイティビティのテストで高い点数を記録するわけではなかったのです。一方で、論理性にこだわらずにさまざまな観点から答えを出そうとする「発散的思考」のテストや抽象的な線画を使ったテストではパーキンソン病患者のパフォーマンスが高いことがわかりました。

by Leonardo Sanches

Inzelberg氏は、ドーパミン作動薬だけではパーキンソン病患者の持つ爆発的なクリエイティビティを説明できないとしています。脳神経学の研究では、卒中や前頭側頭型認知症を理由に脳が損傷を受けるとクリエイティビティが爆発する、という事例も報告していることから、「脳の特定部位が損傷を受けることがトリガーになっているのではないか」とInzelberg氏は考えているとのこと。「正常な人がドーパミン作動薬を服用してもクリエイティブな技術を生み出せるわけではない」とInzelberg氏は付け加えました。

ハーバード大学の心理学者であり作家のShelley Carson氏は2010年に出版された「Your Creative Brain」という本の中で、目の前のタスクに集中するため無関係な刺激をシャットアウトする「潜在的阻害」について言及。Carson氏によると、潜在的阻害がうまい人は、新しい経験にオープンな態度で臨め、よりクリエイティブになれるそうです。そして、統合失調症の患者は潜在的阻害の傾向が高く、幻覚や妄想を減らすために「ドーパミンを減らす薬」という、パーキンソン病治療とは逆の働きを持つ薬が使われるとのこと。

Inzelberg氏は「ドーパミン作動薬が『潜在的阻害』のレベルを下げクリエイティビティを上げる」という点について同意しています。「阻害されないということは、アイデアが生まれる自由が増加するということを意味します」とInzelberg氏。脳が持つクリエイティビティのシステムは通常の人とパーキンソン病患者で違いがありませんが、パーキンソン病患者の脳はダメージを修復しようとして、ネットワークの動作が通常と異なるか、あるいはつながり方が通常とは異なるために、クリエイティビティが爆発するとInzelberg氏は説明しています。

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in サイエンス,   アート, Posted by logq_fa